螺旋、再び 探偵奇談20
「こっちです」
田んぼと畑の間を歩き始める瑞を追う。古い家、新しい家、小さな公園、神社。川沿いの道を歩きながら、伊吹はあたりを見渡す。ここが瑞の育った場所か。町というにはあまりに小さく、村と呼ぶほど寂しくもない。
坂の中腹に日本家屋が見えてくる。鶏がいても不思議ではないような、昔ながらの玄関先。がらがらと音をたてて引き戸を開けた瑞が、ただいまあと声を掛ける。広い玄関から続く磨かれた廊下は、差し込む日差しですごく明るい。
「はーいいらっしゃい!」
奥から駆けて来た女性が、伊吹の姿を認めて笑顔を弾けさせた。伊吹は姿勢を正す。
「先輩、うちの母親です」
「あ、こ、こんにちは。神末伊吹です」
「こんにちは。遠かったでしょう。パパ~、瑞たち帰って来たよ~紫暮も絢世もおいで~」
瑞の母は、なんとも活力に溢れていた。溌剌とした笑顔とハリのある声。ショートカットのパワフルな女性で、ぼさっと立っている瑞は「あんた伊吹くんの荷物もってあげな!」と尻を叩かれている。
「初めまして、瑞の父です」
瑞や紫暮の穏やかな気質は、きっと父親似なのだろう。瑞の父はおっとりと微笑んでいる。背が高くて、やはりイケメンである。そして仏のような癒しオーラを発していた。瑞の言った通り。
「お待ちしていました。瑞がお世話になっております。ありがとう」
「こ、こちらこそ…」
瑞の父に深々と頭を下げられ、伊吹も慌てて頭を下げた。
作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白