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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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螺旋、再び 探偵奇談20

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帰郷



降り立った京都駅で最初に目に飛び込んできたのは、京都タワーでもなくテレビドラマでよく見る東寺の五重塔でもなく、ホームにひしめくものすごい数の観光客だった。伊吹は人波に押され、歩くこともままならない。前に進みたいのに後ろに戻されてしまい、軽くパニックになる。

「先輩先輩、そっちじゃないよ」

瑞がおかしそうに笑っている。慣れているらしい彼は、ひとごみを抜けたスペースから手招きしてをして余裕だ。ようやく中央改札に辿り着き、伊吹はため息を漏らす。

「すごいな」

人ヒトひと、どこを見ても人ばかりだ。

「一年通して人ばっかりだよ。観光地だからね。いまは連休中だし、尚更だよ」

外国人も多く、人ごみに慣れていない伊吹は目がくらむ。そんな伊吹の心中を察してか、瑞は励ますように言った。

「俺の家はめっちゃ山のほうだから静かだよ」

駅で軽く昼食をとってから京都の北へ向かう地下鉄に乗る。
その地下鉄もまたものすごい人だった。寺社仏閣をはじめとする観光地や世界遺産を数多く抱える京都。ここで暮らせるのってすごいな、と伊吹は純粋に思う。小さな田舎町で育った身だから、満員電車なんて別世界なのだ。

人ごみにのまれ、途中で地下鉄の乗り換えを行い、ついた駅から古めかしい市バスに乗る。気が付けば駅の喧騒が嘘のように、バスは緑の山に見える静かな街並みを走っていた。たくさん乗っていた観光客も難しい名前の神社前で降りていき、バスには伊吹らと地元民らしき老人が数名乗っているだけである。

「…すごい」
「秋も色づいてきれいだけど、俺はこの季節のもみじが好きです」

川沿いを走るバスの上は、美しい緑のもみじのトンネルである。柔らかい五月の日差しが降り注ぐ道を過ぎ、バス停でバスを降りる。静かな山間の集落だった。降り立った瞬間の空気の心地よさに、思わず息を深く吸い込んでしまう。澄んだ空気で肺を満たすと、すーっと身体中が心地よく弛緩していく。