螺旋、再び 探偵奇談20
世界が裏返った。
(見ちゃダメだ)
思いに反して体は動く。瑞は立ち上がり、白黒の時間の止まった世界を歩く。川の流れもその動きをとめている。岩と岩戸の隙間を覗き込む。
水の中に、白装束らしきものに身を包んだ人間が沈んでいるのが見える。水面の歪みで、表情までは見えない。でもそれは確かに人間のように思えた。人が、川に沈んでいる。髪が、藻の様に水面に絡みついていた。
「嫌だ…」
瑞は、水面に手を伸ばしている。意思に反して、水に沈んだそのひとに触れようとしている。
「嫌だッ…!」
水面から、ゆっくりと、両腕が伸びて来た。天に突き出されたその腕は、水でふやけて皮膚が腐り落ちている。両腕が、瑞の顔に伸びてくる。沈んでいたそれが、ゆっくりと上半身を起こし、そして瑞の目の前に。
「みず」
夕島柊也が笑っている。
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作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白