螺旋、再び 探偵奇談20
瑞の座る場所から数メートル離れた水際に、立っている誰か…。瑞は前を向いたまま、そちらに意識をこらす。翔太は気づいていないようで、楽しそうな話が続いている。「それ」は瑞に視線を送っている。はっきりとわかる。
「そうそう、去年の夏に、ここで事故あってんで。だからたぶん、この夏も泳ぐのは禁止かもしれんわ」
「事故?」
「どっかから遊びに来てた大学生のグループが増水してんのに、中州でキャンプかなんかやっとって、流されてん。救急車来たって、母ちゃんゆうとった。そのあとどうなったかは俺らわからんのやけど」
事故。
水死?
脳裏にあの名前が浮かぶ。
「それで遊泳禁止になったんや。もしかしたら死んでもたんかなあ」
聞かずとも、調べずとも、その死んだ大学生の中にはいたのだとわかる。
夕島柊也が。
「怖いよなあ。あのへんとか結構深いから」
岩と岩の間。流れの強い場所で水が飛沫を上げているあたりを、翔太が指さす。視界の隅で、「それ」が静かに揺らめいたのがわかった。
「俺ら子どもだけでよく遊んだけど、いま思えば危ないわなあ」
飛沫の合間に、何か白いものがちらちらと見え隠れしている。何だろう…ゴミ袋でも挟まっているのだろうか。普段なら、そんなもの別段気にならない。それなのにいまは、それから目が逸らせない。誘われるように、視線がそこを向く。視界の隅で、「それ」が溶けるように崩れて水面に吸い込まれていく。
その瞬間。
周囲から音が消える。
隣にいたはずの翔太の存在も消える。
世界から色が消える。
川の流れが止まり、その白いものがよく見える。
作品名:螺旋、再び 探偵奇談20 作家名:ひなた眞白