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小さな世界で些細な活動にハゲむ高校生たち 3

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第十四話 部室にて、茶波ちゃんを呼ぶ


「マサ樹、もう一回言ってくれるかしら? ちょっと鼓膜が振動しなかったみたい」

 物凄い眉毛の曲がり様だ。レコミは完全に疑っている。それどころか、日本語とすら認識できていないではないか。

「だから、俺には人の心が見えるんですって! 茶波ちゃんっていう人の」
「誰よそれ、あんたのセフレ?」
「だああっ! んなわけあるかっ!」

 全然眉毛が元に戻らないレコミ。むしろ、さらに歪んでいる。

「部長、信じるって言ったじゃないですか! 信じてください!」

 しかしレコミは耳を貸さない。馬耳東風という様子でお茶をすすり始めた。

「おい三智、お前もなんか言えよ。お前だって都合悪いだろ? 信じてもらえないとさ」

 レコミが信じてくれない限り、三智は俺にキスされるのだ。

「ま、まあ? あたしは幼馴染からキスされるくらい何ともないし?」
「お……お前、堂々とバラしやがって!」

 三智の顔はほんのり赤い。何ともあるじゃねえかっ

「なぁ、人の心が見えるってマジなのかマサ樹?」

 椅子に座ってマグネットタワーを建造していた五色が、横から尋ねる。キスって言葉に反応しないなんて、こいつらしくもない(レコミはお茶を吹き出したというのに。そして杏子さんは、特に何もしていない)。

「マジだよ」
「どんな髪型?」
「二つ結びだ。長さは、脇あたりまで」
「服装は?」
「藍色のコートに、藍色のズボン。あ、髪の毛の色も藍色」
「全部藍色か」

 興味を失ったのか、タワーに向き直る五色。

「そう、そうなんだよ、マジで全身が藍色なんだ。実際に見たら驚くくらいに」

 ハッとする。驚くことは全身が藍色なことじゃなくて、

「手が光ってるんだっ!」

 刹那、五色の手がポン、と肩に置かれる。めっちゃ呆れた顔して。
 何もしてなかった京子さんが、平坦な眉をしたままこっちを見る。

「マサ樹君、メヒカリはいても、テヒカリはいないですよ。ちなみにメヒカリはアオメエソとも呼ばれる深海魚で、脂が強く、とろけるような」
「違います! 彼女は本当に手が光っていたんです、黄緑色の光を!」

 信じてもらいたい。彼女が、いるという事実を。

「彼女はいるんです。特別でもないこの俺が見たんだから、きっと皆にも見れるはずなんです。彼女自身は、自分は誰にも見えないなんて言ってたけど、そんなはずない」

 彼女は。
 希望を捨てようとしていた。身体から飛び出してまで。
 確かにそう言った。
 理由なんて分からないけど、見捨てるなんてできない。まして、俺以外の人が茶波ちゃんを見ることも叶わないなんて、存在すら認めてもらえないみたいじゃないか。

「今は、俺にも彼女が見えてない。でも、すぐそばにいるような気がするんです。ずっとそばにいたって言っていた。だから今も、この部屋にいるんですっ!」

 横や前、後ろを見る。彼女が見えない、室内を。

「そんなに言うなら、今すぐにでも見たいわね! さっさと現れなさい? 彼女とやら!」

 あたかも先生みたいな尊大な態度で、レコミが目をつむって甲高く言う。

「あたしも会いたいかな。友達にしよっと」

 ニコニコしやがる三智だが、本心はきっと、友達増加しか狙っていないんだろう。

「あわよくば……ぐひひ!」

 不審げに目を垂らす五色。ちなみにタワーは全壊している。

「美化部の活動、ワタシはかねがね地味だと思っていました。人の心がワタシたち
に見えるようになれば、ワタシたちは超能力集団に格上げでなのです。出てきて彼女さんとやら!」

 杏子さんが、「集団」というワードを無意識に発してしまう。超能力云々が冗談だとしても、この部を単なる集団としか見ていなのは本当な気がする。俺がそうであるように。

「いるんだろ茶波ちゃん! 俺だけじゃなく、他の人にも見てもらおうぜ。全世界の人間に見てもらう必要なんかない。でも、せめてこの部員たちには。きっと……少しくらいは……楽しめるはずだから! いたっ」

 レコミが俺の脳天をしばく。

「何よその控えめな態度は!」

 くっそ、レコミめ。脳天がビリビリしてるぞ、賠償請求してやろかっ!

「茶波って名前なのねあんた! なかなかいい名前じゃない! この部はすごくアットホームで、誰でも歓迎する最高の部よ! 心でも幽霊でも歓迎よ! 入部届は先生が認めてくれないと思うけれど、わたしたちが認めればそんなものは関係ないわ! 楽しめるだけ楽しみましょう!」

 アットホーム、という地雷発言を垂れ流してしまうレコミ。下手な勧誘だな。

「心が見えるなんて凄すぎじゃねえか! 隠れてないで出てきてくれよ。ご馳走するから」

 誰が払うんだ、そのご馳走代金。

「カラオケ行こうよ、部員たちと一緒に。何ならあたしの友達も誘って歓迎会やるよ?」

 控えめな茶波ちゃんは、そういうの嫌いだと思う。

「限られた者にしか見えぬあなた、是非我が美化部へ。掃除なんて、はっきり言ってかったるい雑用なのでね。どうして心が見えるのかを研究したほうが絶対面白いと思います。楽しいと思います!」

 部の特色を真っ黒にして自分本位の楽しみを言っちゃってますよ杏子さんっ

「あ、あの、みんな。そんなに口々に言われたら、逆に姿を現しづらいかもしれない」

 そう言って、俺は、ここにいるはずの茶波ちゃんに向かって伝える。

「茶波ちゃん! 俺たち、十秒目をつむってるからさ。その間に、出てきてくんないかな。無理にとは言わない。茶波ちゃんを嫌がらせる気なんかないんだ。俺たちは茶波ちゃんと一緒に楽しんでやってくのを望んでる、ただそれだけなんだ。だから、茶波ちゃんも俺たちと楽しみたいって思ったなら、是非出てきてくれないかな」

 言い終えると、しん、と沈黙が訪れる。
 でも、俺は気配を感じている。ストーカーされてたことに恐怖してるってのが九割だけど、残りの一割もの部分は、言いようもない寂しさを抱えた茶波ちゃんの気配なんだ。
 俺は、静かに目を閉じる。