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小さな世界で些細な活動にハゲむ高校生たち 3

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第十五話 三智だけが妙な感じ


 目を開けるのが嫌だ。面倒くさいわけではない。

(現れてくれ! お願いだ、茶波ちゃん。部室に現れてくれ!)

 もう一分以上経っているだろう。でも、もし茶波ちゃんがいなかったらと思うと、どうしても目が開けられない。

「マサ樹、目を開けなさいよ! 去勢するわよ?」
「ひええっ!」

 ビビッて開眼しちまった……お願いだから去勢だけは勘弁してくれ。

「いないじゃない! 目を開けてもどこにもいないじゃない! あたしは長めに三十秒目をつむってたのに、茶波は現れなかったわ!」
「いたっ! 痛いですよ部長!」

 軽めの腹パンを連発されて、痛みが増大していく。

「マサ樹、あんた適当なこと言ってあたしたちを騙そうとしたわけ? 信じらんないなー。幼馴染として引くなー。人としても引くなー」
「いてっ! 引っ張るな!」

 三智は右の耳を引っ張る。望んでもいないオプションとして潰しや捻りが加えられた引っ張りは、控えめに言ってかなり痛い。

「マサ樹、しょーもない嘘はダメだぜ。信じたほうはバカにされた気分が半端ないんだからよ。Are you kidding us?」

 鎌の峰《みね》を俺の股間にヒットさせる五色。何発も何発も。

「五色やめろ! シャレにならない!」

 命の危機を感じているんだが。俺は死ぬのか?
 そのとき、窓際ほうで声が。

「お名前は?」「牧山茶波です」「まきやまってどんな字ですかね?」「牧場の牧に、山は普通の山です」「さなみってどんな字ですかね?」「お茶の茶に、波は普通の波です」「普通のなみっていうと、牛丼並みの並みじゃなくて、ウェ~ブの、波ですか? ざぶん」「そ、そうです、そっちの波です」

 陽だまりのカーテンの中で、女子の陰が会話しているではないか! そして、俺を攻撃する輩に、杏子さんだけが含まれていない。ということは……

「茶波ちゃん!」

 やっぱいたんだ! 俺は窓際にダッシュし、カーテンの中を覗きに……

「どけマサ樹!」「どきなさい!」「マサ樹ジャマ!」

 どたどたと、三人がカーテンに猛進した。そして俺は床の上にぶっ潰されて、一反木綿になってしまった。

「さ、茶波ちゃんッ。オレ、五色太一っていいます! よろしくお願いします!」

 五色がお辞儀して右手を差し出してやがる! 彼女になってくださいってか、ふざけんな! 怯えてるぞ茶波ちゃん!

「わたしは部長の理奈瀬レコミよ! 気軽に話しかけてもらってもぜんっぜん大丈
夫ですわ! あっはははは!」

 それ、なるだけ話しかけたくないタイプの人だぞ、部長。
 ダメだ、床で潰れてる場合じゃない。一刻も早く茶波ちゃんのもとへ行かないと。
 扁平になった体を踏ん張って元に戻し、どたどたと茶波ちゃんのいるカーテンに走る。

「茶波ちゃん!」
「ま、マサ樹くん!」

 遠目からでもびくびくしてたのは分かったが、近くに来るとあわあわと口を震わせているではないか。くっそ、アホ部員から茶波ちゃんを護ることができなかったなんてっ

「わ、私、誰と話したらいいのかなぁ……」

 困惑しちゃってる。困惑なんかしなくてもいい、俺に、俺に話しかけるだけで

「ねえマサ樹……」

 ムカつくことに、三智が呼び止めやがった。

「あ? なんだよ?」

 三智は無言だ。その場に突っ立ったまま、瞬きすらしていない。

「おい、どうしたんだよ」

 は、と気づいた三智。さっきまで茶波ちゃんを求めて無駄に元気だったのに、いざ茶波ちゃんを前にしたら無言。新しく出会った人間とすぐに友達になる三智にあらざる、変な反応である。……どうしたんだろう。

「あ、あたし帰る! 用事、思い出したから!」
「は? 用事って何だよ」
「急に思い出しただけ! じゃね!」

 バタバタと走り去って選択55を出て行く三智。他の部員は皆、きょとんとしている。

「マサ樹、三井浜さんに嫌われたんじゃね?」
「え、なんで」

 三智に嫌われた? あんなに俺のことが(悪い意味で)好きな三智が?

「茶波さんという恋敵の登場で、取り乱したんでしょうね。あれは」

 ポン、と杏子さんが肩に手を置く。

「へ、変なこと言わないでくださいよ! そういうの無いですから」

 肩に付いた杏子さんの手を除去していると、レコミがこっちに歩いてきた。

「三智は明らかに取り乱してたわね! きっと何かあるわ! マサ樹、追いかけるのよ!」
「いたっ」

 言った瞬間、手刀を背中に見舞われた。力が弱かったために心地いい痛みで済んだから許すけど、本当に暴力的な部長だな。

「わ、分かりましたよ! 行けばいいんですよね、行けば!」

 半ば自棄になって引き戸に向かう。三智を追いかけるなんて、屈辱されに行くのと同じなのに。それを追いかけろなんて、レコミのやつ。どこまで鬼なんだ……
 部室を出る直前に、ふと茶波ちゃんを見た。頭をスズランの花みたいに俯かせ、依然として黄緑色に光る右手を胸にあて、光っていない左手でひしっと握っていた。