小さな世界で些細な活動にハゲむ高校生たち
「はぁっ⁉ あんた、掃除してないわけ⁉ やる気がないのなら今すぐ帰りなさい?」
怖ッ。怖いけど、帰りなさいって言われたら帰りたくなくなる。
「だから五色がやってくれるって……」
「シャラップ! 働かない者はいらないわ! 代わりを連れて来なさい!」
「ええ……」
こういうとき、代わりがいないことに困るのが一般的だろう。だが俺は、代わりはいるけど多分他の友達らとサーティツーで騒いでるから連絡したくないということに困る。
「マサ樹、あんた三智とラブラブよね? さっさと三智を連れてきなさい?」
「ラブラブじゃない! ただの幼馴染です!」
「でも男女よ? いつでもセックスできる環境だわ?」
「ばーっっっ!」
「キャッ!」
勝手に腰が浮きあがって、ベンチから転がり落ちた。セックスという単語にこんなに過敏に反応してしまうなんて……。
「おいマサ樹、何抱きついてんだ! レコミとセックスしたいからって、何もこんなところで」
ハッと我に返った俺は、視界が真っ黒になっていた。ついでに、顔面にまな板のような硬いものを感じていた。
「は、離れなさい、この変態!」「部長こそ。あ」
引き戸のほうに、人影が。
「こらこら、こんなところで不純異性交遊は厳禁ですよ」
コンッ
「いてっ」「痛いわね!」
いつの間にか引き戸の前にいた杏子さんにほうきで頭を小突かれ、あっけなく不純異性交遊が終了。それだけで済んで良かった。
「お姉! なんでわたしも叩くのよ、わたしは被害者だわ!」
眉が平坦な杏子さんに迫るレコミ。
「おー、ソーリー。思わず、淫乱娘のレコミがマサ樹君を艶《なま》めかしく誘惑したと思い込んでいました。ごめんごめん、相《あい》ごめん」
優しくレコミの頭をナデナデする杏子さん。おそらく、泣くのの予防。
「何よそれぇ! そんな思い込みするなんて、お姉は変態なんだから!」
「ぐ、ぐぬぬっ! 気づかぬ間にワタシも淫乱娘になってしまったというのかっ」
あからさまに頭を抱えて嘆く杏子さん。親指、人差し指、そして中指の三本だけで頭を抱えているのは、この待合室が中二病オーラに満たされてるから……だと思いたい。よく見ると両眉は、眉間側に僅かに下り坂。
「と、とりあえずみんな、今から草引きするから外に出なさい? マサ樹、あんた草引きはちゃんとやらなきゃ許さないからね?」
強気の姿勢を崩さないレコミは、ほっぺたが赤い。ゆでダコみたいだ。
「部長、俺はセックス発言を止めたかっただけですからね。それ以上でもそれ以下でもない。三智とセックスなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない!」
「マサ樹君、三智さんとセックスしていたのですかッ……あ、眩暈が」
目を回した杏子さんはその場でパタリと倒れ、埃だらけの床に倒れ伏す。眉が元どおり、平坦になっている。
「キャアア! お姉! っていうか何で床掃除してないのよ!」
「え、床も掃除しないといけねえのか?」
口を空けたまま手に雑巾を持って、意外そうに棒立ちしている五色。でも窓を掃除して床を掃除しないのは不自然。これならJRに就職するなんて惨事には至らないだろう。
「仕方ないわね! マサ樹、あんたが掃除しておきなさい! サボっちゃダメよ?」
「……はい」
甲高い声はやっぱり響く。結局俺は掃除しなきゃならなくなった。せっかく五色が配慮してくれたのに、無意味にさせてしまった。
作品名:小さな世界で些細な活動にハゲむ高校生たち 作家名:島尾