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短編集67(過去作品)

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「さやかは、なかなか器用だね」
「どうして?」
「限られた材料をうまく使う」
「どうして分かったの?」
「僕も一人暮らしが長いからね」
 と言って、聡の目が少し俯き加減になって、寂しさを感じさせる表情になったことをさやかは気づいていた。だが、それがどういう意味を示しているのかは、まだ分かっていなかったのだ。
 限られた材料をうまく使う性格は、親譲りなのかも知れないと想っていた。だが、最近になって気づいたのは、薬の影響があったからではないかと思えた。その理由は。薬をやめてからすぐ、料理をする時、限られた材料での料理ができなくなった時期があったからだ。
 最初は焦った。できていたものができなくなったのだから、どこか精神的なものだとしか思えなかったからだ。だが、すぐにできるようになり、今度は今までと少し違った感覚になったのである。創作ができるようになったのだ。
 それまでは卵料理なら卵料理だけのレパートリーだった。それが当たり前だと思っていた。だが、一度薬をやめることでできなくなったものが、できるようになると、まったく違う世界が広がっていた。
 一度特効薬を飲んだが、それがずっと効いているのではないかとも思えた。普通特効薬というと、その場で効いて、治ってしまえば、効力はなくなるものだと思っていたが、これは違っている。
 さやかは、今人生の岐路に立っている。本当に彼と結婚してもいいのかと不安に思っているのだ。幸せなのに不安に感じるのは、それだけ現実は夢よりも先を行っているからなのかも知れない。
 さやかは思う。人生に特効薬があるとすれば、それは人生の先が見える薬かも知れないと……。

                  (  完  )


作品名:短編集67(過去作品) 作家名:森本晃次