短編集67(過去作品)
これも、佐奈子という女性の存在がなければできなかったことだろう。佐奈子は本質的に理恵子に似ている。理恵子が佐奈子に似ているというべきだろうか。最初は分からなかったが、次第に佐奈子によって自分の本能が引き出されていくようだった。その感覚は快感に近い。人前で裸になるのが恥ずかしいという思いの中で、身体の奥から湧き出してくる快感、それは見られたいという気持ちが恥ずかしさに勝った瞬間だが、理恵子も佐奈子の存在によって、捨てられないものを捨てるという気持ちに、我慢できなくなって自分から行動を起こすという気持ちが勝ったからだろう。
気持ちにはすべて葛藤があり、何かを判断するということは、葛藤に勝ったものが優先して行動するということなのだ。寂しさを紛らわすために付き合った男性、彼らを切り捨てることに、なんら抵抗を感じなくなった。免疫ができてきたのだろう。
理恵子が一番怖いのは佐奈子を失うことだった。佐奈子の中に自分を見ている理恵子、それは理恵子の中に自分を見ている佐奈子を感じるからだ。まるで鏡を自分の両端に置いて、無限につながっていく姿を見ているかのようである。
――本当の別れ――
それは、本能が別れることによって本能が我慢できなくなることに相違ないことなのだろう……。
( 完 )
作品名:短編集67(過去作品) 作家名:森本晃次