小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

負のスパイラル

INDEX|23ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

 自信というのは自分にとっての存在意義のようなものだと言う人がいたが、自分に自信のない人はその存在意義をどこに見出せばいいのかと考えたりしていた。
――しょせん、自信家の人が自分に自信のない部分を認めたくないという理由で自分に言い聞かせるつもりで語っているだけなんだわ――
 と蓮は思うようになっていた。
 そんな蓮は遊園地に来てから、
――あの道化師に会えるかも知れない――
 という、これも根拠のない思いを抱いた。
 確かに遊園地というと大道芸人や、奇術師がいるイメージだが、もしそこに奇術師がいたとしても、その時の道化師だとは限らないだろう。蓮が初デートの場所を遊園地に決めていたのは、中学生のデートの定番としての遊園地というよりも、
――あの時の道化師に会えるかも知れない――
 という思いが強かったからに他ならない。
 だが、それに気付いたのはデート当日に遊園地の改札ゲートをくぐったその時であり、その瞬間から、それまでいた世界とは隔絶された世界に入りこんだような気がしたのだ。
 その思いはショッピングセンターで見かけた道化師に感じた思いとほぼ同じであった。あの時の道化師が蓮に与えた衝撃がどれほどのものだったのかは、本人である蓮にしか分からないが、もしもう一人知っている人がいるとすれば、それはその時にいた道化師その人であると、かなりの確率で思いこんでいたのだ。
 その日の遊園地はそれほど人がいるわけではなかった。
 その日、ちょうど中学校の創立記念日で平日ではあったが、自分たちの中学校だけが休みだった。その日を利用してやってきたのだが、想像していたよりもかなり人が少なかった。
「こんなに少ないとは思わなかったね」
 と祐樹は言ったが、
「いいじゃない。遊びたい放題よ」
 と、いつもの天真爛漫な笑顔で蓮は答えた。
 この遊園地は、両親と一緒に来た遊園地だった。その時は、
――親が勝手に連れてきた――
 と思っていた。
 いつも祖母のことで蓮に気を遣わせていると思った親が、蓮に気を遣って連れてきてくれているのは分かっていた。その上で、
――一度あまり楽しくないのに気を遣うことはない――
 という思いを込めて、
「別に遊園地に行かなくてもいいよ」
 というと、癪に障ったのか、父親が、
「何を言うんだ。お前のために行くんじゃないか」
 と言葉的にはきつくはなかったが、声に出して言われると、ヒステリックになっているのは一目瞭然だった。
 それを聞いた時、衝撃を受けた蓮は、
――もう両親に逆らうことができなくなった――
 と感じた。
 それは何を言っても無駄という意識で、親が気を遣っているのを見るのが苦痛になるくらい蓮にはトラウマになってしまった。いくら両親が気を遣おうとも、二度と両親と一緒にいて楽しいなどと思うことがないということに蓮は気付いたのだ。
 そんな遊園地を違う人と、しかも好きな人と一緒に来れるというのは新鮮な気がするとも思った。確かに改札ゲートを超えた瞬間、目の前に広がっている入り口前の広場が、
――こんなに広かっただなんて――
 と思わせたのだ。
――やはり両親と一緒でなければそれでいいんだ――
 と、祐樹のことは二の次に思ってしまったが、それも仕方のないことであった。
 遊園地には、開場時間の最初から出かけた。開場時間は午前十時なので待ちあわせは少し早かったとも思ったが、お互いに気分が高ぶっていたのか、待ちあわせの十五分前には二人とも来ていたくらいだった。
 開場してから昼くらいまでは、一通りのアトラクションを楽しんだ。さすが平日、朝の早い時間では客よりもスタッフの方が多いのではないかと思うほど、ガラガラに空いていた。
 広い園内で好きなだけ何でもできるように思うのは楽しかった。これを開放感というのだろうが、蓮はこんな開放感を感じたのは久しぶりな気がした。
 時間もいつもに比べると進むのがゆっくりな気がした。午前中いっぱい、アトラクションを楽しめると思っていたが、数か所のアトラクションを楽しんだにも関わらず、まだ十一時にもなっていなかった。
「時間が経つのがこんなにゆっくりだったなんて」
 と呟くように言った祐樹を横目に見ながら、
「その通りね」
 と、二人で同じことを考えたことに蓮は感動を覚えた。
「二人きりになれればどこでもいいと思っていただけだったけど、遊園地を選んだのは正解だったかも知れないね」
 という祐樹の言葉に、ますますもっともだと思った蓮は、
「うん」
 と言って頷いた。
 時間が経つのがこんなに遅いと感じたことは今までにも何度もあったことだが、そのほとんどは嫌なことがあった時に感じたことであり、こんなに落ち着いた気分で楽しいと思っている時に感じられるものだと初めて知った。
――時間というのは、私が感じている思いと反対の意志を示すものなんだわ――
 と思っていた時間に、初めて裏切られた気がした。
 しかもその裏切りは蓮にとってありがたいことであり、
――裏切りって、悪いことだけではないのね――
 と改めて思い知った気がしたのだ。
 ここで言う、
――改めて――
 というのは、以前にも同じような感覚に陥ったことがあったが、それがいつのことでどういう内容だったのか分からないが、そう感じたのだ。
――感情にデジャブがあるとすれば、まさしくこのことを言うのではないか――
 と、蓮は感じた。
「今日、私お弁当作ってきたのよ」
 と、蓮は祐樹に斬り出した。
「ありがとう、それは嬉しいよ」
 と素直に喜んでくれ、蓮の方を向き返ると、
「そういえば、今日は少し大荷物だと思っていたんだよ」
 と、蓮を見て、嬉しそうに微笑んだ。
――やっぱりこの人は勘が鋭いんだわ。きっと最初から分かっていたのかも知れないわね――
 と感じた。
 お昼ごはんには少し早いかと思ったが、待ちあわせが早かっただけに、お互いにお腹が空いているのは分かっていたのだ。
 園内には芝生になっているところが何か所かあり、そこで休日ともなると、多くの家族連れがここでお弁当を食べるという光景が繰り広げられるのだと思うと、二人きりはさすがに寂しいように思えたが、逆に普段の混雑を考えると、これだけの広い場所を二人で占有できるというのは、役得のようで嬉しかった。
 季節は冬から春に向けての時期だったので、まだ午前中は寒さが感じられたので、午前中の間は寒いかも知れないと思ったが、二人が腰かけた時間からポカポカ陽気になり、睡魔を誘うほどの気持ちよさがあった。
「天気がよくって、よかったわね」
 と蓮がいうと、
「まさにその通りだね。遊園地はこういういい天気でなくっちゃね」
 と祐樹も素直に喜んでいた。
 食事の時間は、さっきまでの時間の進み方とは反対で、食事が終わった時にはまだ午前中だと思っていたが、実際に時計を見てみると、すでに午後に入っていて、一時前くらいになっていた。
「ああ、もうこんな時間なのね」
 と蓮がいうと、
「でも、元々昼食が終わる時間って、これくらいの時間を最初想像していただろうから、ちょうどいいんじゃないかな?」
 と祐樹が言った。
 蓮はそれに黙って頷いたが、
作品名:負のスパイラル 作家名:森本晃次