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負のスパイラル

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 彼は親友の睦月と友達だ。お互いに惹かれあっているのかも知れない。見ていてどこまでの関係なのか分からなかったが、自分が入りこむ余地はないと思っていた。
 だが、二人の関係がどこかぎこちなく見えてきた。
 睦月が彼を目の前にしている時、その視線は彼を通り越して、あらぬ方向を見ていることに気付いていた。
 祐樹は正面からその意識を持っていたが、蓮は横から見ていてその意識を持っていたのだ。
 気付いていないのは、当の本人である睦月だったのだが、そのことを祐樹も蓮も本人に伝えようとは思っていなかった。
 祐樹が蓮に告白をしたのは、偶然であった。ただ、祐樹が告白をするとすれば、自分でも、
「あの時じゃなければ、ずっとできなかったかも知れないな」
 自分から告白をしなくても、付き合うようになれたかも知れないが、その可能性は明らかに薄い。
 それを思うと、祐樹が告白できたのは本当に偶然なのか、自分でもよく分かっていなかった。
 しかも後から思うと、蓮が言った、
「あなたしかいない」
 というあの言葉、最初から予感していたような気がした。
 いや、
――あの言葉を返してくれる蓮だと思ったから、好きになったんだ――
 と感じた。
 祐樹という男の子は、自分が思い描いたシナリオを忠実に自分の人生として歩んでいるように思えた。逆に言えば、忠実にシナリオ通りに人生を歩めなくなると、どうなるか分からないと言えなくもなかった。
 二人はそれぞれにお互い、細い吊り橋の上を、横風に煽られながら歩み寄っているかのように思えた。しかも、同じ時間でなければ会うことのできない細い吊り橋の上である。横風に揺られながら進んでいくのを冷静な目で見ているのは睦月であろうか。彼女が遠くを見ていたというのは、二人が出会うであろう吊り橋だったのかも知れない。
 予知能力を本当に持っているかどうかは別にして、予知能力を意識している祐樹、そして予知能力はないと自分で断言はできるが、デジャブを意識することで、予知できる何かを感じることができると思っている蓮。
 この二人が知り合ったのは、偶然かも知れないが、その間にアシストとして睦月という女性の存在が大きかったことは間違いないだろう。
 二人が知り合う中で睦月がどのような影響を及ぼしたのかということを、蓮も祐樹もそれぞれに考えていたが、その考えはそれぞれで違っていた。
 何しろ、肩や好きになった異性として意識した相手であるし、肩や親友としてずっと一緒にいた相手である。
 二人の初めてのデートは中学生としては定番と言ってもいい遊園地だった。蓮は彼氏ができれば最初のデートは遊園地と決めていたのは、今まで家族と遊園地に出かけても楽しいと思ったことがなかったからだ。
 蓮は家族に対して、あまりいい印象を持っていなかった。自分を育てるのはまるで、
「子供ができたから仕方がないので親としての責任を果たすだけ」
 と思っていたからだ。
「親の心子知らず」
 とはよく言ったものだが、蓮にしてみればその逆で、
「この心、親知らず」
 だと思っていたのだ。
 もちろん、それは自分が親になってみないと分からないことなのかも知れないが、蓮は親が自分に対して引け目を感じているのが何となく分かっていた。
 その引け目がどこから来ているのか分からなかったが、引け目を感じているくせに高圧的な態度に出る親を、
――よく分からない人種だ――
 と思っていたのだった。
 蓮は一人っ子で、家には両親と一緒に祖母がいた。
 祖父は蓮がまだ小さかった頃に亡くなったと聞いていて、貌もよく覚えていないほど、小さかった。
「おじいちゃんの記憶って私にはないのよ」
 と睦月には話したことはあったが、自分の家族のことを話したのは睦月にだけで、あまり家庭のことを他人に話すのは好きではなかった。
 他の家族のことを知りたいという思いはあった。しかし、
「知ってどうするって言うんだ?」
 という思いも強く、下手に触れない方が自分にとって無難だと蓮は思っていた。
 祖父が早く死んだことで、まだ老人というには早かった祖母が一気に衰えたという話はよく両親が話をしているので分かっていた。
 その話というのは、思い出したくもないことで、その話をする時の両親は、決まって喧嘩をしていたからだ。
 喧嘩の理由はその時々によって違っていた。
 しかし、喧嘩の原因が何であれ、行きつく先は祖母の話題だった。
「どうして私があなたのお母さんの面倒を見なければいけないの?」
 と母が父に食ってかかる。
「そりゃそうだろう。お父さんお母さんはこれまで俺たち家族に対していろいろしてくれたじゃないか。ここで恩返ししないでどうするんだ」
 と父は少し困ったように言う。
「だってあなたは長男じゃないのよ。お母さんの面倒を見るというのならお兄さんのところが筋っていうものじゃないの?」
「それも分かっているけど、あっちには受験生の子供がいるんだ。気を遣わないといけない時期なんだから、しょうがないだろう」
 と至極当然の話を両親は繰り広げていたが、それはお互いに言い訳でしかないことを蓮は知っていた。
 しかも両親もそのことは分かっているのだろう。何度もこの話題になっては、喧嘩の幕引きになっていた。それを思い出すと急にトーンダウンして喧嘩は終息に向かう。この話題が出れば喧嘩が終息するということを分かっている蓮は複雑な思いを抱くのであった。
 そんな家族なので、家族の間での優先順位はまず祖母になる。そして祖母の次の優先順位というと蓮になるのだ。
 この優先順位は同じ家族環境の家庭であれば、どこも同じなのだろうと蓮は分かっていた。しかし、他の家庭も同じようにいさかいが絶えない家庭なのかどうかよく分からなかったが、全部が全部いさかいばかりを起こしている家庭ではないだろう。そう思うと、他の家庭のことを知りたいという思いもなくはなかった。
 蓮はこんな時いつも、
――自己催眠を掛けることができればな――
 と思っていた。
 自己暗示と言ってもいいだろう。だが、暗示だけではすぐに覚めてしまうだろう。催眠であればなかなか覚めないものだという意識が強く、催眠術に興味がないと思っていた蓮は、いつかショッピングセンターで見た道化師のことを思い出すのだった。
――あの道化師だったら、私に催眠を掛けることくらいは簡単なことなんでしょうね――
 と想像していると、あの時の道化師の顔がよみがえってきた。
 蓮は人の顔を覚えるのが致命的に苦手だった。
 一度しか会ったことのない人であれば、確実に次は覚えていない。極端に言えば一時間も経てばもう一度同じ人を見ても、その人がさっき会った人だという自信がないのだ。
 それなのに、今回思い出した道化師の顔は覚えている。そもそも道化師なのだから、皆同じ顔に見えるものなのだろうが、同じ顔の化粧を施していても、間違えることはないと思うほどの自信であった。
 もちろん、根拠のない自信である。本当に会えば急に自信がなくなるかも知れない。そう思っていたのだが、やはり最後は自信が戻っていた。
――一度失った自信を取り戻すということはできないことだ――
 と蓮は感じていた。
作品名:負のスパイラル 作家名:森本晃次