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「つかさ」と「つばさ」

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 そして、現状の自分と比較している自分を思うと、何とか頭で理解しようとしても理解できるものではない。そもそも彼が正直に告白したことが信じられなかった。明らかに彼女の性格を読んでいて、それで正直に告白すれば許されると思ったと感じたのであれば、それは猪口才なやり口であり、彼女のもっとも本当に嫌いな性格の相手二なり下がってしまったと言えなくもなかった。
 二人はぎこちなくなり、それまでせっかく隠してきたのに、そのぎこちなさから二人の関係が次第にまわりに分かるようになっていった。
「ねえ、緒方さんと先生がまさかね」
 と皆は興味本位に口にする。
 最初から皆に分かっていれば、その経緯も分かってくれているのだろうが、破局を迎えた時に皆が悟るのだから、過去に遡って見るというのは、想像でしかない。しかも、破局のドロドロとした愛憎絵図が渦巻く関係から想像するのだから、かなり事実とは異なった歪んだ想像をされているに違いない。皆の噂は誹謗中傷に満ちていて、二人に肯定的な意見は皆無だったに違いない。
「やっぱり、最初から内緒にしていたということが災いしているんだわ」
 と緒方先生は思った。
 確かに最初からオープンにしていれば、もっと暖かな目もあっただろうが、バレたという形になれば、まわりは、
「裏切られた」
 と思っても仕方がない。
 人に内緒にするということは、その側面に、裏切りという文字が潜んでいることを緒方先生はその時初めて知ったのだ。
 結局二人はドロドロの状態で破局を迎え、しかも生徒に手を出した先生として世間から白い眼で見られた先生は、退職していった。それが自分から辞めたのか、懲戒免職だったのかは、緒方先生にも分からなかった。
 だが、最初から正直にまわりに悟らせていれば、付き合い始める頃に同じことになっていたかも知れない。何しろ、
「生徒に手を出した先生」
 なのだから……。
 緒方先生の気持ちの中に、
「交わることのない平行線」
 が生まれた。
 それは矛盾した感情であり、
「まわりに知られたくない」
 という本能的な感情と、
「知られていればこんな結果にはなっていなかった」
 という結果論からの後悔との二つである。
 それが、平行線となって自分の心の中に残ってしまったという思いが最初は強く残っていたが、そのうちに意識の片隅に残るだけになったが、さすがに記憶の中に封印してしまうことはできていないようだった。
 そのせいもあって、緒方先生は次第に自分の性格に気付くようになってきた。
「私は、ひょっとして女の子が好きなのかも知れない」
 と考え始めた。
 最初は、性同一性症候群という、いわゆる、
――自分の内面は男ではないか?
 という疑問が湧いていた。
 だが、そのうちに自分がどうしても男性になりきれない部分があることにも気付いていた。それからも男性と身体を重ねることはあったが、男性の身体を見て、気持ち悪さしか残らなかった。そんな自分が男性だったという考えは自分の中で否定するようになっていた。
 そうなれば、
――私は、レズビアンなのでは?
 と感じるようになってきた。
 女性を好きなのは男性としてではなく、女性として自分が大切にしたいものが女性というだけで、母性のようなものは自分の中に存在していることに気付いた。
 先生とうまくいかなかったのは、ひょっとすると、先生の方で彼女に対して女性として疑問を感じたからなのかも知れない。
 そういえば、別れ際に変なことを言っていた。
「君が本当に好きになるのは、僕のような男性ではない」
 と言っていた。
 聞いた時は、
――これは言い訳で、自分以外の女性を好きになったんじゃないか?
 と思った。
 だから思い切って、
「そんなことを言って、あなたは他に好きな女性ができたんじゃないの?」
 と聞いてみた。
 すると、彼は、
「そうだね。誰かを好きになるとすれば、今の君と違うタイプの女性を好きになるんだろうね。」
 と言って、緒方先生の言葉を否定しなかった。
 すっかりマイナス思考にしか考えられなくなっていた緒方先生は、
「そうなの。だったら好きにすればいいわ」
 と言って吐き捨てるかのようにその場を後にした。
 その時、まったく後ろを振り返らなかったが、その時、自分の潔さを誇らしいと思ったくらいだ。
 そんな思いもあったので、緒方先生は自分が、
「竹を割ったような性格で、元は男性なんじゃないか?」
 という疑問を抱くようになったのだ。
 しかし、しばらくしてから自分がレズビアンではないかと思うようになると、その本質が男役にあるということに気が付いた。だからそれからは女性を見る目が変わってきていることを自覚はしていたが、女性に気持ち悪がられるような視線になっていることには気付かなかった。その視線に最初に気付いたのは、かくいう付き合っていた先生ということになるのであろう。彼女の視線の気持ち悪さは、女性よりも男性の方が敏感に気付くようで、彼女に近づいてくる男性は、ほとんどいなかった、
 近づいてくるのは、ちょっと変わった性癖がある男性で、彼女が身体を重ねる時になって男性の気持ち悪さを感じたというのは、自分の目に映ったことだけではなく、相手の視線の気持ち悪さもあったのだろう。そのことで自分がレズビアンだと気付かされたというのも実に皮肉なものであった。
 緒方先生が教師を志したのは、昔から憧れていたというのもあったが、高校生の女の子に憧れがあったというのもその一つである。
 大学には幸か不幸か、入学できたのは教育学部だけだった。その入学が将来の緒方先生の道を決めたと言っても過言ではないだろう。
 大学時代は同級生の女の子とは何もなかった。ちょっと可愛いと思った女の子もいたが、その女の子はリーダー格の人だったので、緒方先生の好みとは合わなかった。だが、同じような性格ということもあり、親友としては最高の相手だった。人に言えないようなことも相談できる相手として君臨してくれたことは嬉しかった。
 彼女にだけは自分の性癖を話した。
「どんな性癖があろうとも、私は嫌いになったりはしないわ」
 と言ってくれたのが嬉しかった。
 しかし、逆にいうと、決して好きにはなってくれないということでもあり、少し寂しさを感じたが、それでも冷静に考えると、
――私が求めているのは、彼女のような女性ではない――
 と感じられた。
 お互いに性格が似ているので、引き合うどころか反発し合うに違いない。つまりは、磁石でいうところの同極の反発なのだ。
 同じ教職を目指すものとして、似た性格なのも仕方のないこと。お互いに気持ちが分かりすぎるくらい分かるので、いい面もあれば悪い面もある。それまですべてを晒してもいいと思っていた相手だったが、次第に警戒心も生まれてきた。無理もないことである。
 教育学部を無事に卒業できた緒方先生は、念願の教師になれた。そして赴任してきた先が中江つかさのいる高校だったというわけだ。
 緒方先生が事なかれ主義になったのは、
――自分の性癖を隠したい――
 という思いが強いからであろうか。