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「つかさ」と「つばさ」

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 でつるんでいると言ってもよかった。
 そんな彼女のことを最初に言い出した方の彼女も分かっているつもりだったので、
「私が話をすれば、自分も感じていたと言ってくれるに違いない」
 と感じていた。
 だが、実際にはそんなことはなかった。彼女は気付いていなかったというし、どうしたことだろう。そもそも彼女にこの話を最初に言ったのは、本能的に動くタイプの彼女だったからである。他にも同じような人はいたが、彼女にしたのは、その感受性が一番強いと思っていたからだ。
 その考えに間違いはなかった。しかし、それでも彼女は緒方先生の視線に気が付いていなかったという。
――ひょっとして緒方先生の意識は、私が考えているよりももっと深いところにあるのかも知れないわ――
 と感じた。
 自分の見方が間違っていたとは思わないが。想像していた流れにならなかったことは彼女にとって屈辱的にも近い敗北に感じられた。だが、それ以上に彼女の中で、自尊心の強さに気付かされて、もっと柔軟に考える力を持つことができるようになるとすれば、この機会はちょうどの分岐点だったに違いない。
 実際この後二人は仲良くなり、つかさに対して二人の影響力が出てくることになる。
 最初に話をした岡本あゆみといい、話を聞いた門倉あいりという。二人は知らず知らず中江つかさに近づくことになるのだ。
 緒方先生は、女子高生の頃、憧れの男子先生がいた。
 緒方先生の性格は竹を割ったような性格で、思ったことは猪突猛進のようなところがあり、そのせいで、根拠もないのに無謀なことに挑戦することもあったくらいだ。しかしそれでも何とかなってくるのは先生の役得なのか、それとも天性の持って生まれた才能のようなものなのか、その頃に判断のつく人はいなかった。
 この時も、緒方先生は好きになった男子先生に対して迷いなくアタックした。その先生も一度は自分が先生という立場からか断ったようだが、そんなことでめげる緒方先生ではなかったので、何度もアタックされるうちに男子先生も折れたのか、彼女と付き合うようになった。
「これは二人だけの秘密。誰にも言っちゃダメだよ。言ってしまうと破局になるだけじゃなくて、二人の人生がめちゃくちゃになりかねない」
 と言った。
 緒方先生は、彼が、
「これは君のためなんだからね」
 などというセリフを吐いていれば、ひょっとすると冷めていたかも知れない。
 彼は正直に答えたのだ。緒方先生のことも大切だけど、一番大切なのは自分であると。それは本心であることは緒方先生には察知できた。だからこそ、彼を好きになったのだと自分で納得していた。
 その頃から緒方先生は、
「私はいい悪いは別にして、正直な人が好きなんだ」
 と感じるようになった。
 そのおかげか、相手が取り繕ったセリフを吐いている時は、
「本心じゃない。自分の保身に走った愚言だわ」
 とすぐに気付くようになった。
 そういう意味で好きになった男子先生は自分にも相手にも正直だった。本当に自分に正直な人は、相手を思いやることもできる。最初から相手のことだけしか考えないようにしている人は、自分から逃げている可能性もある。そう思うと、どうしても信用することはできなかった。
――やっぱり先生は私も信じた人だったんだわ――
 と思うと嬉しくなった。
 有頂天になった緒方先生は、それまでとは打って変わったようになっていたようだが、まわりは気付いていたが、本人は分かっていなかったようだ。
 たまにクラスメイトから、
「緒方さん、変わったわね」
 と言われても、ピンと来なかった。
 自分としては、それまで同様のポーカーフェイスのつもりだったが、
「それそれその表情」
 と言われて、
「どういうこと?」
「顔から笑みがこぼれているわよ。緒方さんって、エクボができるのね」
 と言われてビックリして、鏡を見にいったほどだった。
「本当だ」
 自分でもビックリしたが、
「きっと緒方さんは正直な証拠ね」
 と言われた。
 人が正直かどうか見抜くのには長けているとは思っていたが、まさか自分を正直だって言ってくれる人がいるとは思わなかった。
 緒方先生は自分の性格が嫌いだった。なぜなら、
「自分が好きなのは正直な人だ」
 と思っているくせに、自分に対して正直な性格だなどと、これっぽちも思わない。
 自分に対して感じないことを他人が感じるはずもなく、
――きっと自分を客観的に見れば、好きになれない性格なんだろうな――
 と感じていた。
 緒方先生は意外と自分を客観的に見ることのできない人だった。他人を客観的に見ることには長けている。いや、主観的に見ることがかつてはできなかったと言ってもいい。それができるようにしてくれたのは好きになった先生のおかげだった。
――この人を好きになった本当の理由は、この人に対してだけは私が主観的に見ることができる唯一の人だわ――
 と思ったからだ。
 自分のことでさえ主観的に見ることはできないのに、この人にだけは違っていたのだ。
 だが、ここで自分でも不思議に感じたのは、
――私って、自分を客観的に見ることができないと思っているのに、主観的にも見れないのよね――
 と今さらながら、その時に初めて気がついた。
 そしてそれと同時に、
――他人のことはよく分かるのに、自分のこととなるとまったくなんだわ――
 と思うようになった。
 そんな緒方先生は好きになった先生とどれくらい平和に過ごせたというのだろう? まるで夢のような時間だったのだが、その間は時間の流れがそれまでとはまったく違っていた。ちなみに、それ以降でも同じような時間の感覚を感じたことはない。独特の時間だった。
「一日は長く感じるのに、一週間になると、短いのよ。一週間が短いと思うと、今度は一か月が長く感じる。一年ともなると……」
 と、時間の感覚は、時間に対しての間隔と密接に結びついている。
「まるでダジャレだわ」
 と苦笑したが、まさしくひらがなで書けば、同じ「かんかく」である。
 だが、緒方先生とその先生のお付き合いは約半年で破局を迎えた。理由は信じていた男子先生が浮気をしたからだった。
 相手は同僚の女教師である。彼女はいつも影にいるような性格で、表に出ようとはしない。かつての緒方先生のような感じだったのだが、緒方先生の場合は自分をしっかりと持っていたが、その女教師はいつまでも煮え切らないような性格だった。要するに緒方先生とはまったく正反対の性格だったのだ。
「ごめん、俺、浮気しちゃった」
 彼は正直に告白した。
 緒方先生の性格から言って、正直に告白すれば許されるとでも思ったのか、ただこと浮気ともなるとそうもいかない。好きな相手に対しての感情は正直さという性格だけで解決できるものではないだろう。
 逆上はしなかったが、堪忍袋の緒はすでに切れていた。
 何とか平静を装っていたが、彼女にとってそれまでの自分のやり方、さらには性格が否定されたような気がしたからだ。
――これが失恋の痛手というものなのかしら?
 それまでの楽しかった思い出ばかりが思い出される。