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『イザベラ・ポリーニの肖像』 改・補稿版《後編》

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 彼が初出演した映画は人気俳優が主演を務めたラブ・ストーリー、ライアンは煮え切らない主役の背中をことあるごとに押す親友と言う役回りだった、映画の方は大したヒットとはならなかったが、ライアンの演技の確かさは関係者の目を惹き、その美男ぶりは多くの女性の目を惹いた。
 まだまだスターの仲間入りしたとは言えないが、作品に恵まれれば一気にブレイクする可能性を持った役者だ。
 プラッティ役には目星がついたものの、ホワイトヘッドまだ大きな課題を抱えていた、他でもない、イザベラ役に誰を起用するかだ……こちらはプラッティ役よりはるかに難しい。
 当然のことながら、イザベラに面差しが似ていなければならない、映画が公開されるのは絵そのものが公開された随分と後になるからだ。
 そっくりと言うわけには行かないのは当然だし、メイクで無理に似せることは却って観客をしらけさせるだけだとホワイトヘッドは考えていたが、イザベラ役として違和感のない雰囲気は備えていなければならない。
 そして、ぜひとも新人女優を使いたいと言う希望も持っていた、既に世に出ている女優の中にも、メイクの力を借りれば違和感なくイザベラを演じられるだろうと思える女優も何人かいる、だが、既に有名になっている女優には演じて来た役柄のイメージがどうしても付いてしまう。
 観客は印象に残った役柄に女優を重ねて見てしまうものだ、観客のハートを映画に引き込み、感情移入を引き出すためには、まだどんなイメージも付いていない『まっさらな』女優を使いたい……。
 ホワイトヘッドはあらゆる伝手を頼ってそんな女優を探したが、そう簡単に見つかるはずもない。
 だが、一つの幸運がホワイトヘッドに訪れた。
 もし映画の女神がいるならば、苦悩する彼に微笑みかけてくれたのかもしれない。
 もし美術の神がいるならば、重要な役割を担う彼に手を貸してくれたたのかもしれない。
 ライアンとの何度目かの面談を終え、彼を見送った際、悩める映画監督はロビーで彼を待っていた女性の輝くばかりの笑顔に目を奪われたのだ。
(いた! イザベラがいたぞ!)
 ホワイトヘッドはその時思わず心の中で叫び、ライアンと連れ立って出て行こうとした彼女を急いで追って声をかけた。
「君! 名前は?」
「え? 私ですか?」
「そう、君だ」
「サラ・コンティと言います」
「ライアンを待っていた?」
「あ、はい」
「もしかして、恋人同士なのかな?」
 その質問にはライアンが答えた
「ええ……彼女も同じ劇団に所属してる舞台女優で、付き合って一年になります」
 その答えを聞いて、ホワイトヘッドは自分を捉えた美の正体を知った。
 恋する者だけが持ち得る、内面から滲み出す喜び、慈愛、ときめき……それらがライアンを迎えた時のサラの微笑みにまばゆいばかりの輝きを与えていたのだ、イザベラの微笑みがそうであるように……。

「さっき、ライアンから劇団員だと聞いたが、どれくらい?」
「大学では文学を専攻していたんですけど、戯曲を勉強しているうちに次第に舞台に惹かれるようになって……劇団に所属するようになってからはまだ一年です」
 ホワイトヘッドはその答えを聞いて(むしろ都合がいいな……)と思った。
 一年やっていたなら台詞はある程度喋れるようになっているだろう、だが長くやっていれば個々の演じ方と言うものが身についてしまい、自分のイメージとの間にズレが生じてしまう、少々稚拙であったとしても、初々しさが残っているくらいの方が良い……。
「僕がライアンに持ち掛けている映画のことは?」
「ええ、もちろん聞いています、彼、とても興奮していてその話ばかりするんです」
「その映画のヒロインがまだ決まっていないんだが、やってみる気はある?」
「え?……私がですか?……」
「君の目を見て言っているんだよ」
「でも、私なんかまだまだ……」
「君を見た瞬間にピンと来たんだ、それにライアンとは実生活でも恋人同士だと言うじゃないか、それはきっと映画に良い結果をもたらすと思うんだ」
「なんだか夢を見ているようで……」
「これは現実だよ、もっともまだいくつかテストを受けてもらわないといけないがね」

 台詞回しのテスト、パリから送られてきた写真を基にした衣装とメイクを施してのカメラテスト……サラは申し分なかった。
 プラッティと心を通わせるシーンが上手く撮れれば映画は半分以上成功したも同じだ、そしてライアンとサラの組み合わせならばそれはきっと上手く行く……ホワイトヘッドはそう確信していた。