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異時間同一次元

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 それが定員オーバーのせいなのか、それとも、早良が邪魔だったということなのか、早良には分からなかったが、降りるしかなかった。
 その時のことがどっちだったのか、時間が経ってされに冷静になった早良には、もうどっちでもよかった。
「どうせ、あいつらとはもう友達でも何でもないんだ」
 と思ったからだ。
 それからの早良は、彼らに対して、今まで一緒にいたのがウソのように近づくことはなくなった。また彼らも早良には近づくことはない。
 だが不思議なことに、そのことにぎこちなさや違和感はなかった。本当に最初から何もなかった関係だったというだけにしか見えなかったからだ。
「もったいない時間を過ごしていたようだ」
 と、早良は感じていたが、彼らがどう感じていたのか、知りたいとも思わなかった。
 早良が友達を作らない理由のほとんどが勇気がないからであったが、一度だけ別の理由があるとすればこの時だった。
 この時のエピソードが、友達を作ることへの勇気を持てないことに対して影響を与えたのかどうか分からないが、少なくとも早良には、
「そんなの関係ない」
 と言ってもよかった。
 十年ちょっと前に流行ったギャグを口にして、早良は自分のことに対して、関心を持っていないかのように振る舞っていた。
 それは、友達を作ることに勇気を持てないことと関係があった。ついつい自分が投げやりになってしまうことは、早良にとって友達が少ないことの理由にするにはあまりにも情けないということは分かっているが、どうしようもないことだった。
 投げやりな性格のせいもあってか、早良は自分に甘いところがあった。
 早良は結構いろいろなことに興味を持つ好奇心旺盛な少年だった。
 それは小学生の頃から、大学生になった今でも同じことなのだが、興味は持つが飽きっぽい性格なのか、長続きすることはなかった。
「長続きする必要はないんだ。要はどれだけたくさんのことに興味を持つかということが重要なんだ」
 というのが持論だった。
 だが、本当は一つくらい長続きする趣味と言えるようなものがほしいと思っているのも事実だった。これだけは隠そうとしても隠しきれない思いが早良の中に横たわっているのだが、一歩踏み出すことがどうしてもできないのは、自分に甘いところがあるからではないかと考えていた。
 それも大きな理由なのだろうが、実際には気が散りやすい性格であるというのが直接の理由だった。
 そういう直接の理由がなければ、やりたいことをできないという理由にはならないだろう。それを早良は自覚しておらず、その感覚が早良の中で一番彼を苦しめる結果になっていたのだ。
 小泉は父親への意識からか、友達が少なく、人も基本的に嫌いだった。そんな小泉の気持ちをまわりも察しているのか、小泉に近づいてくる人はほとんどいなかった。
 小泉は小学生低学年の頃は勉強が嫌いだった。算数が理解できなくて、そのせいで他の教科もよく分かっていなかった。学校に行って授業を受けても、授業が終わってしまうと、どんなことを習ったのかすら覚えていなかった。そのうちに宿題が出されたということすらも覚えていないようになり、いつも、
「お前は今日も宿題をやってこなかったのか?」
 と先生に叱られていた。
 本当は、宿題をしたくないからしてこないわけではなく、宿題が出ていたということを忘れてしまっていたのでしてこなかっただけなのだが、それを先生に言うことはやめていた。
――どうせ、言い訳なんだろうと言われるだけだからな――
 と思ったからだ。
 だが、宿題を忘れていたということは、勉強を拒否しているということであり、それは意識以前の問題で、
――生理的に受け付けない――
 ということそのものだったのだ。
「嫌いなことは嫌いだ」
 という小泉の考え方は、この頃から確立されたのかも知れない。
 いや、元々生まれつき持っていたもので、その時に身についたということなのかも知れないが、生理的に受け付けないということが小泉をまわりに、
「分かりやすい性格だ」
 と言わしめた理由ではないだろうか。
 宿題をやらないだけではなく、成績も酷いものだった。算数など零点の時もある。別に無記名での答案というわけではない。それなりに回答はしているのだが、そのすべてが間違っているのだ。
 事情を知らない先生は、
「何でこんな間違いをするんだろう?」
 と感じていたことだろう。
 しかし、小泉にしてみれば、彼なりに理屈の通った間違いだった。
 実は、彼の回答は、そのすべてが一点の勘違いを改めれば、そのすべてが正解であったと言っても過言でない時もあった。すべてがその一点のせいでずれているのだ。だから答案は零点なのであり、少しでも点数があれば、それは統一性に欠ける回答であることから、本当に彼が何も理解できていないということになる。
 つまり小泉は勉強が嫌いではあったが、理解力は相当なものだった。しかし、一つの根本的なことが理解できないだけで、そのことの距離がそのまま平行に間違った感覚になってしまっただけなのだ。
 その根本的な理解というのも、他の人であれば簡単に理解してしかるべき内容だった。というのも、理屈抜きにして受け入れることで理解できることだったのだ。だが、小泉は理解することのすべてに理由を必要とした。そのこだわりが、どうしても彼を理屈抜きでの理解に導くことができなかったのだ。
 小泉にとって、その理解は小学生の頭では無理だった。
「まだ幼い頭だから」
 というわけではなく、
「成長が発展途上だから」
 という理由の方が正しいだろう。
 そんな小泉も小学四年生くらいになった頃か、いきなり覚醒した。それまで理解できなかったことが、頭の中で理解できるようになったのだ。それがどうしてなのか、そしてそのきっかけが何だったのかは自分でも分からない。しかし分かってしまうと、それまで理解できなかったことがすべて瓦解し、積み木が組み立てられていった。
――何だ、こんなに簡単なことだったんだ――
 と、それまでできなかった勉強ができるようになったことが小泉を有頂天にさせた。
 有頂天になった小泉の成績は右肩上がりでうなぎのぼりだった。学校の先生もビックリしていて、
「これなら、有名中学への受験も決して無理ではない」
 と言わしめたほどだ。
 勉強を理解できるようになった小泉は、貪欲に勉強を楽しみたかった。彼にとって中学受験も、
「勉強を楽しむこと」
 の一つであり、進学塾への入学も、あの父親は許してくれた。
「そうか、やる気になったか」
 の一言で決まった。
 言葉は嬉しそうな表現なのだが、本当に喜んでいるのかどうか分かったものではない。
――俺は信用しないぞ――
 と思いながら、貌では満足そうに装っていた。
 親を欺くことが悪いことだとは分かっていたが、
――こんな親なら許される――
 と思うと、欺くための偽の笑顔すら罪悪感を感じることはなかった。
 小泉の中学受験は、彼もまわりも予想通り、無事に入学できた。小泉の気持ちの中に、
「不合格」
 の文字はなかった。
 合格しか思い描いていなかったので、
――もし不合格だったら、どうしよう?
作品名:異時間同一次元 作家名:森本晃次