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異時間同一次元

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 ロボット三原則では、やはり優先順位の存在のために、ロボットがにっちもさっちもいかなくなり、そのまま動けなくなってしまい、行動停止に陥ったという場面もあった。
 だが、小説はそれを許さない。ロボットに行動を起こしてもらわないと、自分たちの命がない。
「どうやって彼らを動かすか?」
 これが小説のテーマだった。
 つまり、無限ループに入りこむという前提の元、敢然とその矛盾に対して立ち向かったのだ。
 そう、つまりロボット三原則も、底なし沼も、そしてフランケンシュタインの話も、すべて、
「矛盾」
 という発想から生まれてきたのではないかと思っている。
 そう思うと、道化師の存在の中にも、無限ループであったり、矛盾という発想が潜んでいるのではないだろうか。そして、そのことを今考えている早良は、その大きな命題に入りこむことはできないまでも、ある程度までは近づけると思っている。
 もっとも、入りこんでしまっては抜けることができないと考えるのは、底なし沼の発想であって、決して入りこんでしまってはいけないということを示しているのだ。
「俺にとって道化師の存在は、今の俺の性格を形成するに大きな役割を果たしていたんだ」
 と今さらながらに当然のごとく感じていた。
 早良は中学の時、道化師を見たということを嫌というほど思い出さされたエピソードがあった。普段は道化師を見たということをあまり思い出すことはなかったのだが、その時は思い出したのだ。
 どうして思い出さなかったのかというと、
「きっと、思い出したくないことを記憶の奥に封印してしまうことができる、自分にとって都合のいい性格だったのかも知れない」
 と感じていた。
「だった?」
 性格というのは、そう簡単に変わるものではないことは分かっているが、まだ思春期前のことなので、その性格という者すら形成されていなかったと考えるのも無理もないことだった。
 しかしその反面、
「いや、性格というものは持って生まれたもので、それを成長過程で変えることはできない」
 と言えるのではないだろうか。
 だが、それでも持って生まれたものであったとしても、成長過程なんだから、変わったように見えるのも仕方のないことだ。そう思うと、早良には自分の性格というものが分からなくなってくるのだった。
 早良が嫌が上にも思い出さされたと思っているその時に、彼はテレビを見ていた。まわりには数人がいたような気がする。それも知り合いと見ていたというわけではなく、どこかの待合室にあったテレビに見入っていたような気がしたのだ。
 待合室というと、きっと病院だっただろう。そのこともうろ覚えだったのだが、それだけいやが上にも思い出したことが印象的だったに違いない。
 早良はテレビを最初から凝視していたわけではない。待合室にいて、何もすることがなかったことで、目の前にあるテレビを見ていただけだった。
 テレビを見ている時に入るコマーシャルタイムであるが、
「どうしてあんなに皆真剣に見ているんだろう?」
 と考えたことがあった。
 きっと自分もまわりの人から見れば、真剣に見入っているように見えるのかも知れない。それは真剣に見ているわけでも、集中しているわけでもない。ただ、目の苗を流れる映像しか自分に入って来ていないことで、集中しているように感じさせるだけなのだろう。
 これは当たり前のことを言っているようだが、誰もコマーシャルに集中していることを意識していないから、何も感じないということだろう。
 テレビの映像はコマーシャルからすぐに本編に変わった。それは情報番組だったが、ちょうど特集コーナーの最中だった。
「今回の匠様は、工芸界でも有名な足利先生に来ていただきました。先生は民芸品に秀でていて、各地の民芸をお造りになっています。各県で売り上げナンバーワンの商品も数品あり、押しも押されぬ業界をけん引されておられる方です」
 と、女性アナウンサーの紹介から、一人の初老の男性が現れた。
 まだまだ現役で髪の毛には白いものが斑になっていたので、結構な年齢ではないかと思わせたが、彼を見ていると、
――人間、年齢なんて関係ないんだな――
 と感じさせた。
 しばらくは、民芸家の作った作品を紹介する時間が費やされ、
「さて、それでは問題です」
 と、いきなりリポーターのアナウンサーがそう切り出した。
 スタジオのMCはビックリして、
「な、なんでしょう?」
 といううろたえたリアクションをしたが、見ようによってはこれも演技、インパクトを強めようという狙いがあったのかも知れない。
「実はこの足利先生、民芸品を作る傍らで、実は別の趣味がおありになるんです。それをお当ていただきたいと思います」
 と振られたスタジオMCは、
「それは民芸には関係のないことですか?」
 と聞かれて、
「うーん、関係ないと言えばそうなんですが、先生の才能を生かしたものであることは確かですね」
 と言われて、少しMCも考え込んだ。
 あまりにも返答がなかったので、リポーターが心配になったのか、
「じゃあ、ヒントと行きましょう。その内容は子供たちに対してのもので、先生はこの趣味を生かして、全国の学校や幼稚園に訪問しているくらいなんですよ」
 と言われても、それだけではあまりにも漠然としている。
 そのうちに一人のMCが、
「人形劇ですか?」
 と答えた。
 すると、それを待っていたかのようにリポーターは、
「おしい!」
 と一声掛けた。
 するともう一人のMCが何かを思いついたのか、
「あ、影絵ですか?」
 と答えた。
「正解です。人形劇では人形を作るのは一人でもできますが、講演には少なくとも数人は必要です。でも、。影絵ですと先生一人でも大丈夫なんですよ」
「えっ、そうなんですか? 影絵も人がいるような気がしますが?」
 というMCの意見ももっともなことだった。
「はい、ですがここからが先生の真骨頂で、先生が一人でもできる影絵を考案し、それを自分でやるようになってから、全国を回るようになったんですよ。これも一つの先生の才能なんですよね」
 と言った。
「なるほどですね。それは素晴らしい。私も子供の頃には影絵を見たという記憶がありますが、残念なことに少し怖かったという印象しか残っていないんですよ」
 それは早良も感じていたことだった。
「うんうん」
 と頷いて、さらに先を期待していたが、今度は足利先生が口を開いた。
作品名:異時間同一次元 作家名:森本晃次