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異時間同一次元

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 それは別に誰かがいてくれるからというわけではない。普通だったら、
「小泉がいてくれれば、他に友人がいなくてもいい」
 と、誰か特定な人を絶対の親友に仕立てて、その人を崇拝することで、他に友人がいないことを正当化しようとする。
 それがいいか悪いかは分からないが、少なくともその時の早良には、
――それはそれで正解だ――
 と思っていたことだろう。
 だが、友達がいなくてもいいと思った理由はそこにあるわけではない。確かに小泉を親友だと思う気持ちはあったが、他に友人がいるいないという問題とは次元が違うものであった。
 親友というものがどういうものなのか考えたこともなかったことが、その時の早良だったのだが、どうして考えなかったのか、後から考えても分からない。だが、不思議だという思いはない。
――それはそれで自然なことだ――
 と言える。
「それはそれで」
 というのは、早良が一人で思う時の口癖のようなもので、投げやりにも見えるが、決してそうではなかった。
 小泉が友達の少ないのは、早良とは少し違っていた。小泉には早良と違って、社交性はある方ではないだろうか。しかし、途中から友達を遮断するようになる。それは敢えて自分から望んだことで、自業自得や勇気などという早良の理由とは異なっていた。
 小泉は、小学校の頃から親の仕事で、転勤を余儀なくされた。そのため、彼も絶えず転校とは切っても切り離せないようになり、気が付けば、一年に一度は転校していた。
 小泉の父親は性格的に、
「頼まれたら嫌とは言えない性格」
 だったのだ。
 子供から見ても一目瞭然なので、会社ではさぞや重宝に扱われていることだろう。そんな父親を見て育った小泉は、知らず知らずに大人を嫌いになっていた。
 最初は人の弱みに付け込む頼む方の大人を毛嫌いしていたが、そのうちに嫌とは言えない父親の方がよほど悪質であるということに気が付いた。
――お父さんが嫌と言えば済むことじゃないか――
 と、大人の世界がそれほど単純ではないということを分かってはいたが、まずは行動に起こさない父親を情けなく感じたのだ。
 最初の頃、どうしてそう思わなかったのか自分でも不思議だった。父親が一言でも嫌だと言えば、状況は変わったと思ったからだ。実際にその時は変わらなくとも、毎回嫌だと言っていれば。まわりも嫌がることを押し付けようとする自分たちが悪者であるかのように感じ、罪悪感に見舞われることになるだろう。状況が大きく変化しなくとも、すべてを押し付けられることはなくなるはずだ。
「人格を否定されたようで、見ているだけでイライラする」
 と小泉は感じた。
「俺はあんな大人には決してならないぞ」
 という思いは、小泉の少年時代における考え方の根本だったのだ。
 もちろん、押し付ける方も悪いに決まっている。しかしそれを跳ね返すことができないことが相手を増長させることにもなる。それを小泉は分かっているつもりだ。
 だから、小泉は最初にそんな大人を嫌いになった。だが、そのうちに自分の父親側から見たことで、父親も嫌いになった。
 父親を嫌いになったからと言って、それまで嫌いだった大人を許したわけではない。余計に嫌いな気持ちは強くなり、さらにその思いが父親への思いに繋がってくる。だから余計に、父親に関わっている大人すべてが嫌いになっていった。
 父親のことをなるべく気にしないようにしておかないと、普段の学校生活も家庭生活もおかしくなってしまう。父親は仕事が忙しく、家にあまりいないのが幸いだった。ただ、それも仕事を押し付けられているからであって、断ることのできない父が一人でかぶってしまっているということである。
「お父さんは何を考えているんだろう?」
 と、気にしていなくても、気が付けば、そう考えていることもある。
 もちろん、その答えが見つかるわけもなく、父親のことを考えてしまった自分に苛立ちを覚えた。
 だが、学校に行くと、不思議と父親のことを考えないで済んでいた。それは、学校にいる時が一番安らぎを感じられる時だということを自覚していたからである。まわりは皆他人で、他人であるということを、肉親に対しての憎しみから感じるなど実に皮肉なことであったが、その思いが幸いして、余計なことを考えないで済んでいた。
 そして、他人といることの気楽さが、子供の頃の小泉の考えの原点となっていた。
 友達がいなかったわけではない。友達と言っても、集団の中の一人というだけで、いつも端の方にいるだけだった。一人でいるのが嫌なわけではないが、隅の方にいることで自分の気配を消すことができ、まわりから期待されることもなければ、押し付けられることもない。ただ、いるだけだった。
 完全に影となっていた。
「影は楽だったよ」
 大学で友達になった早良に、子供の頃のことを聞かれて最初に答えたのが、この返答だった。
「そうだよな。影って楽だよな。でも、俺は影にもなりきれない。勇気がなかったんだ」
 と早良がいうと、
「影に勇気なんかいらないさ。別に何も意識することはない。ただ、気配を消すことだけを考えればいいんだ」
「気配を消すなんて考えたこともない」
「俺も最初に考えた時、できるかどうか分からなかったけど、簡単だった」
「どうするんだい?」
「別人になったつもりで自分のことをずっと見つめるんだよ。そうすると、本当の自分から幽体離脱したみたいな気がしてきて、本当の自分が抜け殻のようになったのを感じるんだよ」
 これが小泉の考え方だった。
 早良にはそんなことが理解できるわけはなかったが、
「うんうん」
 と、頷いて分かったふりをしていた。
 小泉はそんな早良の様子に気付いていたが、何も言わなかった。別に分かってもらおうという気もしなかったからだ。
 小泉は自分が父親に対して反発心を人よりも強く持っているという意識はなかった。
――他の誰もが父親に対して、何らかの不満を持っているんだ――
 と思っていた。
 それは、人それぞれなのだろうが、小泉が抱いている思いと同等か、少し少ないかくらいの気持ちだったので、結構まわりも親に対して憎しみを抱いているものだという思いがあったのだ。
 そのため、学校などで、
「ご両親を大切にしないといけない」
 などと聞かされると、
――何を分かりきったようなことを言っているんだ。しょせん、きれいごとじゃないか――
 と不満を感じていた。
 そして、この不満は自分だけでなく皆だと思っていたのだ。
 だが、誰もそのことに対して不満を洩らす人はいない。それを見ていると、
――まわりの皆も自分の父親と同じじゃないか――
 と感じてきた。
 ただ実際には、一番不満を洩らさなければいけないはずの自分が何も言わないのが一番の罪なくせに、そのことには触れず、まわりばかりを非難する気持ちになっていた。
 そのせいもあってか、まわりを信用できなくなっていた。だから、
「友達などいらない」
 という気持ちになったのであって、自分のことを棚に上げていることなど、まったく気付いていなかった。
 その思いが小泉を一人にさせた。
作品名:異時間同一次元 作家名:森本晃次