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夢ともののけ

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「小説はイメージを一から作り上げるものであり、絵画は目の前にあるものを忠実に描くことにある」
 と思っていた。
 そういえば以前。、絵画が趣味という友達と話しをしたことがあったが、その時に彼が言っていたことが印象的だった。
「絵画って、目の前にあるものを忠実に描くだけなんじゃないだ。省略できるものは大胆に省略するということも大切で、あるべきはずのものがそこにないという矛盾を、いかに見ている人に悟られないようにするかというのも絵画の醍醐味なんじゃないかって思うんだ」
 その話を聞いて、
「まるで改ざんしているような感じよね」
 というと、
「別に絵は目の前のモノを正しく描くのが絵画という芸術ではない。ひょっとすると、充実に描くことが一番の自然なのかも知れないけど、不必要だと感じるものを省略することも自然なことではないかって僕は思うんだ」
 それを聞いて優香は、将棋の話を思い出した。
「一番隙のない布陣は、最初に並べた布陣なんだよ」
 という話である。
 絵画にしても将棋にしても、最初の一番大切なものを削ってでも、先に何かを求める。これは小説の世界にも当てはまることではないだろうか。
 そう思うとさっき自分が言った、
――先を読めるように考えながら書くこと――
 という話もあながち間違っているわけではない。
「ケガの功名」
 という言葉もあるが、まさにそれである。
 遠回りしてでも最短で行こうとも、同じところに行きつくのであれば、それはそれで正解である。別にスピードを求めるのではない。
――スピードを求めるのであれば、それはもはや芸術ではないと言えるのではないだろうか――
 と優香は考えた。
 絵画であったり小説というものをいかに表現するか、優香にはその思いを感じながら、彼との話を頭の中で展開していた。
 絵画と小説は、それぞれに何かを対比させることで比較できるのではないかと考えたが、ひょっとすると、対比させていることであっても、どちらかが一周回って同じところに戻ってくると、同じ発想から生まれていることが分かるのではないかとも考えられた。
 ただ対比させることで、まわりに深みを増し、いろいろな角度から見ることができることに気が付く。それが芸術というもので、芸術には、いろいろな種類があるが、原点は同じなのではないかと思えてきた。
――芸術の原点が同じなら、芸術以外の発想も、必ずどこかで繋がっているのではないか――
 という発想は危険であろうか。
 優香は夢を見ることがその発想の深みであり、夢も結局一周回って戻ってくると、同じところに落ち着くのではないかと考えるようになった。
――だけど、それだけなのかな?
 と優香が考えていると、まるで見透かしたかのように彼が口を挟んだ。
「それだけではないさ」
 とニッコリと笑ってのしたり顔。
「どうして私の考えていることが?」
 と聞くと、
「だって、ここはあなたの夢の世界。あなたの潜在意識が作った世界。つまり私もあなたの潜在意識の中にいることになる。だからあなたの考えていることは分かるのよ」
「だから、的確な回答が?」
 と優香が聞くと、
「でも、優香さんは僕の回答をすべて鵜呑みにしているわけではないでしょう? 疑っているというよりも、さらにその奥を覗こうとしている。貪欲なところが見られるんですよ。でもその貪欲さは普段の優香さんにはないものでしょう? それが夢の夢たるゆえんというところでしょうか」
 と彼が言った。
「それだけではないって、一体何がそれだけじゃないのかしら?」
 と優香は彼の話を分かっているわけではなかったが、スルーして、話を進めた。
 話を進めたというよりも、早く結論を導き出したいという思いからなのかも知れない。
 その思いは、
――この夢はこのまま永遠に続くわけではない。いずれ覚めてしまう――
 ということに気付いたからだ。
 もちろん、これを夢の世界の中での出来事だと感じた時から、夢が覚めるものだと分かっているのは当たり前のことであり、覚めることを意識していたように思う。
――いや、本当にそうだろうか? 夢なら覚めないでほしいという感情に似たような思いを抱いていたような気がする――
 と感じた。
 小説を書いている時は、先のことを思い浮かべながら書いていると、結構楽しく思えたのだが、それは書き終えて我に返ってからのことであった。実際に書いている時というのは、
――本当に先のことを思い描き続けることができるのだろうか?
 と絶えず考えていた。
――いや、考え続けているからこそ、小説というものを書けているのかも知れない――
 と感じた。
 考えることをやめてしまうと、先を思い浮かべるなんてできっこない。つまりは、不安に感じていることも、
――考えていること――
 であり、考え続けることと同じレベルの発想であったのだ。
 自分の中でまったく違った発想だと思っていることも、夢の中では同じレベルの問題だったりする。逆も真なりで、普段同じ発想だと思っていることも夢の中ではまったく違う次元の発想として思い浮かべているのかも知れない。
――ひょっとして、夢の中だけが時系列の矛盾や発想の深みがあるものだって思っているけど、本当は現実の世界にも同じようなものがあって、ただ気付いていないだけなのかも知れない――
 と思った。
 夢の世界だけが特別なものではなく、それはまるで昼と夜の関係のように、それぞれ道教できないが、同じ感覚で繰り返しているという発想だと思えば、分からなくもない。夢の世界のことを分かっていないのは誰もが分かっていることだが、現実世界を夢の世界並みに分かっていないと思っている人は果たしてどれくらいいるだろうか?
――本当に難しい発想だわ――
 と考えていると、
「優香さんが夢の世界と現実の世界の違いを、本当は存在しないように思っているだろうと思ってですね。そこまでくれば、一歩前進だって僕は思っています。ここから先は優香さんの発想がいかに証明されるかだと思いますが、その証明は優香さん自身が自分を信用できるかどうかということに掛かっています」
 と彼は言った。
「なるほど、分かったような分からないような感じですが、あらたまって証明という言葉を聞くと、何か緊張してくるのを感じますね」
 と優香がいうと、
「優香さんは、すでに結論に近づいているように僕には感じますが、そのことが優香さんを不安にさせているようにも思います」
「というと?」
「優香さんは、この夢の世界の終点をご存じのように思う。どんな結論が出るかということよりも、結論が出たことで、この夢の世界が終焉を迎えるということを分かっているんですよね。だから、終焉を迎えてしまうことに不安を感じている」
「そうかも知れません」
「そして、終焉を迎えることの不安は、夢が終わってしまうという不安よりも、自分の中で得られた結論を、目が覚めた瞬間に覚えているかということも大きな不安材料ではないかって思うんですよ。なぜなら優香さんは、大切なことは夢から覚めると忘れているものだって思いこんでいるでしょうからね。それは最初の方の話でよく分かっていますよ」
 と、彼の口から出てきた、
「最初の方の話」
作品名:夢ともののけ 作家名:森本晃次