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夢ともののけ

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「確かにそうなのよ。夢に対しては私の中で造詣が深いと思っているの。だから余計に、夢の世界と現実の世界には結界のようなものがあって、決して侵すことのできない領域が存在していると思っているのよ」
 と答えた。
 すると彼は冷静になって、
「ただ、それは夢というものを過大評価しているからというだけだよね。実際に夢の世界を自分の見ているものだという意識がないから、結界のようなものを作ってしまうのかも知れないね」
 彼がいうのは、いちいちもっともだと思った。
――悔しいけど、彼の言う通りだわ――
 彼が言っていることがすべて正しいと思っているから、悔しいと思っているわけではない。
 彼の考えが優香の考えを凌駕しているように思っているから感じることなのだ。考えが凌駕しているというのは、優香が考えていることを彼が打ち消すような気持ちはなく、包み込むような状態になることで、優香は自分の考えを封印することになる。それが優香には悔しいのだった。
「夢ってさ」
 彼はボソッと言った。
「えっ、何?」
 優香は彼に対して必要以上に敏感になっていた。言葉の一言にいちいち反応している自分が、さらに悔しく思えた。
「夢というのは、君はどれくらいの長さ見ているように思っているんだい?」
 と聞かれて、優香はハッとした。
 なぜなら、この質問は一番されると思っていた質問であるが、なるべくなら最後の方にしてほしいと思っていた質問でもあった。
「最初の頃は、眠りに就いてからすぐに見初めて、目が覚める寸前までずっと見ているものだって思っていました」
「それはそうだろうね。でもいつしか、その思いが変わってきた?」
「ええ、夢というのが、目が覚めるにしたがって忘れていくように思えたからというのが最初のきっかけなんですけど、興味を持って、図書館で夢に関しての本を読んだ時、『これだ』って思ったの」
「というと?」
「その本に書かれていた内容は、『夢というのは、目が覚める数秒で見るものだ』っていうことだったのよ。それを見た時、最初、『そんなバカな』って思ったんだけど、よくよく考えてみると、その説に辻褄が合っているように思えてならなかったの」
 と優香は言った。
「そういう説は少なからずあると僕も思っているよ。信憑性のある内容だとも思うし、ただ、そのわりにはその説を知っている人が結構少ない気がするんだよね」
「確かにそうね。やっぱり私のように興味を持って本を読んだりしないと、分からないことだからかしらね?」
「それもそうだけど、それ以上に、夢が数秒で見るなんて話、普通の人にはピンと来ないんじゃないかって思うのよ。その感覚が一番なんじゃないかな?」
「人は直感を信じるということなのかしらね?」
「直感というものにインスピレーションを強烈に感じるからなのかも知れないね。理屈よりもインスピレーションを重んじるのが人間なのかも知れないね」
「でも、それって危険な気がするわ」
「その通りさ。だから、人間は夢を見るんじゃないかな? 夢で何かの戒めのようなものを感じるとすれば、説得力もあるような気がする」
 彼の話はかなり強引に感じられたが、聞いていて違和感はなかった。
「でも夢って、その人のモノなんじゃないの?」
 と優香が聞いた。
 優香は当たり前のことを聞いているつもりだったが、彼はその言葉を聞いて、違和感を感じているようだった。
「どういうことなんだい?」
「だって、夢はその人だけのモノでしょう? こうやって今見ている夢だって、私の夢なんだから、ある意味あなたも私の夢に出てくる登場人物の一人にしか思えないということなんだけど」
 というと、急にハッとした気分になった。
――何て失礼なことを言っているのかしら?
 普段なら、こんな失礼なことを口にするはずのない優香だったが、それを意識せずに口から出てくるということは、それだけ今見ている夢を漠然と感じているからなのか、それとも、夢だという意識をしっかりと持っている証拠なのかのどちらかではないかと思えたのだ。
 彼は少し失笑しているようだった。それこそ優香にとっては失礼に当たるのだろうが、たった今、彼に対して失礼だと思った自分が感じてはいけないことのように思えた。
「君は夢というものを一種類だって思っているから、そう感じるんだよ。夢にはいくつもの種類がある、しかも、今見ている夢にだって、いくつかの要素が含まれていて、どちらとも取れる解釈だってできるというものなんだよ」
 ますます分からなかった。
 彼は続ける。
「あなたにとって夢というと、どういう意識があるんですか?」
 と言われて、彼が何を言いたいのか、そして何を優香の口から聞きたいのか分からないので、思ったことを言うしかないと優香は感じていた
「夢というのは、眠っている時に見るもので、見ている本人の潜在意識が見せるものだって聞いたことがあります」
 というと、
「潜在意識ですか。確かにその通りでもありますね。自分が普段から感じていることで、なるべく意識しないようにしようとしていることだったり、意識しなくてもいいほど、普通のこととしてしか意識できないようなことを心の奥にしまい込んでいたりする場合、それを潜在意識というのかも知れませんね」
 と彼は言った。
「ええ、だから、覚えている夢では、自分が普段から意識していないつもりでも気になっていることを夢として見るものだって思っているんです」
「あなたは、その夢を覚えていますか?」
「夢って、結構目が覚めるにしたがって忘れていくものだっていう意識があります。特に楽しかったり、もう一度見たいと思うような夢は、まず覚えていない。楽しかったという意識があるだけで、もう一度見たいという思いだけが残っていて、だから、諦めがつくのかも知れないとも感じています」
「その気持ちはよく分かります。ということは覚えているのは怖い夢がほとんどだということですね?」
「ええ、そうです。ただ、最近は怖い夢というよりも、気になっている夢という言い方の方が的確なんじゃないかって思うんですよ。夢に対しての意識は、子供の頃と今とではだいぶ変わったような気がするんですが、一体どの時点で変わったのかということは分からないんです」
「そんなものだと思いますよ。特に見た夢があまりにもリアルすぎる夢だったとしたら、本当は夢なのに、現実のことのように思いこんでいることだってあるかも知れませんよね」
 と彼は少し意味深な言い方をした。
 優香は逆のことを考えていた。
 夢があまりにも現実離れしているので、夢でしか見せないようにしているということ。つまりは、あまりにも自分に都合よく解釈されたものであることから、夢でしか見せないという考え方だ。
 だから、夢を覚えていないのだし、覚えていたとすれば、果たして自分はどんな気持ちになるだろう? 夢の世界に対しての思いを馳せることで、本当に夢を追い求める気持ちになるのではないだろうか。
「そういえば、夢って、目が覚める寸前の数秒くらいで見るものだって聞いたことがあるけど、どうなんでしょうね?」
 と聞くと、
「それはそうなんじゃないかい?」
「どうして、そう思うの?」
 と優香が聞くと、
作品名:夢ともののけ 作家名:森本晃次