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感情の正体

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 二人でどこかに出かけたり、お互いのことをいろいろ話したりということが頭に浮かんでこなかった。相手を頼もしく思うというところから先が進展していないのだ。
 だが、それは彼女に対してだけだった。クラスの他の女の子で、気になる女の子を見つけると、その子と一緒に遊園地に出かけたり、駅での待ち合わせのシーンを思い浮かべたりすることができた。
 相手は決まっておとなしい女の子で、想像する中で主導権を握っているのは、いつも正樹だった。
 その頃から同い年の女の子に頼りがいを感じるというのは、自分の勘違いではないかと思うようになっていた。頼りがいを感じさせるのであれば、相手が年上でなければいけないという考えが正樹の中にあったのだ。
 正樹にとって、自分が相手にどう思われようがあまり関係はなかった。自分がどう思うかということが大切だと思っていたのだが、実際にはその逆だった。
 人の目線など自分には関係ないはずなのに、目線の正体が女性だと分かると、急に焦りが生まれてくる。
――悪い印象を与えてしまったかな? 取り返しがつかなかったら、どうしよう――
 と思うようになった。
 相手が男性なら、
――別に友達じゃないんだから、どう思われようと関係ない――
 と思えば済むことだった。だが相手が女性なら、しかも、気になっている相手ともなると、
――嫌われたくない――
 と感じるのだから、これは恋愛感情に結びつかないまでも、思春期特有の、
――異性を求める欲求――
 と言えるのではないだろうか。
 これは動物的な感覚だと思うと味気ないものだ。だが、そこに存在しているフェロモンだけは、認めざるおえないだろう。思春期になると急に生まれる異性への感情は、フェロモンという形のあるものが証明してくれる気がしていた。
 正樹は視線が合っても相手が何もリアクションをしてこないことを、最初はホッとした気分になっていた。
 それは、自分がどう思うかが大切だと感じていたからであって、考えてみれば相手が何もリアクションを起こさないということは、それだけ自分のことなど眼中にないということではないか。それは相手にどう思われるかということであり、そっちの方が大切なのだということに、やっと気が付いた気がした。
 だが、それは自分主導の考えであり、恋愛感情というのは、相手のことを考えてこそ成り立つものだと思っていたことであり、このずれが、恋愛感情を抱かせるための障害になっていることを示すものだった。
 正樹はタバコを吸わないので、待合室でタバコを吸っている人がいるのを見て迷惑だと思っていた。正樹は人と関わることを嫌う理由の一つに、タバコの存在があるのも事実だと感じさせる瞬間だった。
 今の世の中、ほとんどの場所が禁煙である。電車の中はもちろんのこと、駅の構内、公共施設、喫茶店や飲食店。それが当たり前のようになっている。逆にタバコが吸える場所の方が珍しい。
 おおっぴらに吸える場所といえば、スナックなどの呑み屋だったり、パチンコ屋などの遊技場やギャンブル場、つまりは、一般の人が普通にいる場所ではないところである。
 そんな場所で嫌煙権はなかなか行使できない。パチンコ屋で隣の人がタバコを吸い始めると、露骨に嫌な気分になるが、
「何見てんだよ。文句があるのか?」
 と言われて、
「タバコの煙が臭いんです」
 というと、
「ここはタバコを吸ってもいいんだ」
 と言って、まるでタバコを吸う人が正義のような言い方をする。
 確かにタバコを吸う人にとって、公共の場所は肩身の狭い思いがあるのだろう。
――しかし、百害あって一利なしのタバコを吸う連中に何の権利があるというのか――
 というのが正樹の考え方だ。
 肺がんで死ぬのは勝手にその人だけが死ねばいいだけで、副流煙でこっちまで被害を蒙るなど、愚の骨頂に思える。
 考えてみれば、今から三十年前くらいまでは、どこでもタバコは吸えたらしい。途中から禁煙席というのが設けられ、今ではタバコを吸う人が肩身の狭い思いをするようになったのだが、それも自業自得と言えるのではないだろうか。
 そんなことを考えていると、昔の人はよく我慢ができたものだと思えた。
 嫌煙権に市民権を得られるようになるまで、どれくらいの期間と人がいったというのだろう?
「今では、タバコを吸う人の方が圧倒的に少ないが、昔はもっともっとたくさんいたものだよ」
 という話を聞いたものだ。
「でも、昔はどこでもタバコが吸えたので、タバコの臭いに慣れていたという意味では、今よりもマシかも知れないな」
 という意見もあった。
 今では、タバコをそばで吸っていなくても、さっきまで禁煙ルームでタバコを吸っていたという形跡が明らかに分かる。身体にタバコの臭いが染みついていて、不愉快千万である。
 最近では、電子タバコや加熱式タバコなるものが流行っているが、果たしてどこまで嫌煙権を網羅できているのか、正樹には分からなかった。確かに臭いはあまり感じないが、どこまで普及できるのか、疑問でもある。
 正樹は、タバコを吸う人間を信用しないようにしていたが、中にはいい人もいるとも思っている。今の正樹のまわりはタバコを吸わない人ばかりなので幸いなのだが、これからタバコを吸う人間とも付き合っていかなければいけなくなるのではないかと思うと、少し億劫に感じられていた。
 待合室の雰囲気は異様だった。皆緊張しているのだろうが、それを悟られたくないという思いがその場の雰囲気を一種異様なものにしているように思えた。
「こういうところは、ベテランと言っていても、実際に初めての女の子が相手だと、それなりに緊張するものなんだ」
 と、先輩が小声で教えてくれた。
 そう思ってまわりを見ていると、雑誌を読んでいる人、スマホの画面を見ている人、さまざまではあるが、皆無表情で、何を考えているのか分からない。まわりに悟られないようにしようという思いの表れではないだろうか。
 正樹は急に気が楽になった。
――なんだ、皆一緒じゃないか――
 と思ったからだ。
 ただ、気は楽になったが、緊張が抜けたわけではない。実際に緊張を抜くつもりは正樹にはサラサラない。
――この緊張感が、たまらないんだよな――
 と感じた。
 写真では女の子の顔は確認したが、対面してみないと分からないところも多い。下手をすると、相手を過大評価してしまっていて、出てきた相手が自分の思っていたような女の子ではないかも知れない。
――まるで博打のようだな――
 と思ったが、選ぶ時は先輩の意見も十分に聞いたつもりだった。
 ここまでしているのだから、出てきた相手が気に食わなくても、悪いのは自分であって、誰を責めることもできない。最初から潔い気持ちでいなければ、いわゆる地雷を踏んだ時の覚悟をしておかなければ、二度と風俗に顔を出すことはないだろう。
 いや、それだけならいいが、女性に対してトラウマが生まれるかも知れない。
 そういえば、雑誌などを読んでいて、
「童貞を捨てる時、相手の女性の態度によって、トラウマを受けることが往々にしてある」
 と書かれているのを見たことがあった。
作品名:感情の正体 作家名:森本晃次