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感情の正体

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 と言われて、敷かれたマットの上に横たわると、ローションを塗られて、その後は彼女の無言の攻撃が続いた。
 今度も彼女の吐息が聞こえた。
「ハァハァ」
 さっきと同じ吐息だったが、声のトーンがまるで違う。
 先ほどよりも少し声のトーンは低かったが、ハスキーな声には妖艶さが滲み出ていた。
――この声――
 正樹は声を感じるたびに、自分の身体が反応するのを感じた。
 彼女はまったくの無口だった。そのくせたまに正樹を見つめてはニコリと微笑む。その表情は明らかに淫らだった。
 そのすべてが下から見上げる目線で、獲物を狙う獣の目線にも見えたが、正樹はそれでもよかった。
 自分の立場は、彼女ありきであり、自分に自由はなかった。ただ黙ってされるがままになっているだけしか自分にはなく、それならば、
――このまま快感に身を任せるだけのこと――
 と思えばいいだけだった。
 そのことを理解すると、正樹は目を瞑った。目を瞑って快感に身を任せていると、自分の身体を這っている彼女の指先と、時折舌先を感じる。そんp微妙なコントラストが、一番敏感な部分をなかなか攻撃してこないことへの焦らしを感じさせ、次第に肌に鳥肌が立ってくるのを感じた。
――鳥肌って、気持ち悪い時だけに立つものじゃないんだ――
 こんな当たり前のことすら、今まで知らなかったことをその時の正樹は痛感していた。
「ふふふ」
 彼女は正樹がそのことを感じた瞬間、声を出して笑った。
「何もかも私にはお見通しよ」
 と言わんばかりの様子に、すっかり正樹は魅了されてしまった。
 その時に正樹は、自分が完璧に受け身になっていることに気が付いた。そして、このまま終始受け身でいくことが決まったかのように思ったが、それを彼女も最初から分かっているかのように、攻撃の手は緩まない。
 いや、完全に緩まないというわけではない。実際には攻撃には強弱があり、強攻撃だけではすぐに陥落してしまうことを相手は知っている。そこに焦らしがあったり、寸止めがあったりすることで、強弱を感じることなく、快感を継続させることができる。ただ、それも人それぞれの体質があるだろうから、寸止めというのも難しいだろう。それを可能にするのは、経験と感性だと思うと、正樹は男女の身体の相性の奥深さを感じないわけにはいかなかった。
 ローションが肌に心地よいと思っていたが、
――あまり長いとしつこく感じられるのではないか?
 と思えてきた。
 確かに同じ場所をしつこく攻撃されるとくすぐったくなるもので、正樹はそれを危惧していた。
 だが、彼女にはそんなことは分かっているようで、決して同じ場所をしつこく責めてきたりはしない。強弱をつけるだけではなく、体位を変えることで刺激する場所も微妙に変化していって、次第に一番敏感な部分に着実に近づいていた。
――いよいよかな?
 と正樹は待ち構えていると、それを察した彼女は、すかさず敏感な部分への攻撃を加えた。
「おおっ」
 思わず声が出てしまった正樹は、
――しまった――
 と感じ、彼女の顔を見てしまった。
 そこに浮かんだ彼女の顔は、さっきと同じ人間かと思うほどに変貌していた。その表情は、
――本当なら見たくなかった――
 と思うような表情で、妖艶さを含んだ顔は、
――さっきと同じ人なのか?
 と思うほどの顔になっていた。
 自分よりも少し年上くらいにしか思えなかった彼女だったが、今正樹を責めているその顔は、まるで自分の母親と変わらないくらいの熟女になっていたのだ。
――そんな――
 と思い、一瞬敏感な部分が萎えてしまったかのように思ったが、異変に気付いたのか、彼女はここぞとばかりに、正樹の敏感な部分を頬張り、激しく刺激した。
「おわっ」
 身体がエビぞってしまったことで、もう正樹は平常心ではいられないことを覚悟した。
 彼女の攻撃は容赦なく、まるで正樹のすべての精気を貪り尽くさんとしているかのように思えて、本当は逃げ出したい気分になっていた。
 それを許すまじと攻撃の手を緩めない彼女の前に、童貞の正樹にはどうすることもできなかった。一気に高まった感情が吸い取られていくのを脈打っている身体全体で感じていた。
「ハァハァ」
 今度は正樹が喘いでいた。
 正樹は童貞ではあるが、一人でする経験がないわけではない。
 一人でした後に残る憔悴感を、正樹は最初嫌だったが、慣れてくると、
――こんなものか――
 と思い、それを仕方のないことととして捉えるようになった。
 正樹があきらめがいい性格だと思うようになったのはその頃からで、
「まあいいや」
 というのが、自分の心の中での口癖になっていた。
 一戦を終えて、二人は憔悴していたが、彼女の方が立ち直りが早かった。
「達してしまうと、男は憔悴が長いからな」
 とは、先輩から教えられていたのでよく分かっているつもりだったが、そそくさと起き上って次の用意をする彼女を遠目に見ていると、もう満足してしまった自分を感じていた。
 だが、今日は彼女の言いなりになると決めていたのだ。それにこれから何があるのか興味は十分にあった。先ほど一緒に座った簡易ベッドに腰を下ろしている彼女は、正樹を見ながら、起き上ってくるのを待っているかのようだった。
――時間が書ひられているのに――
 と正樹は感じた。
 人によっては、今の正樹と同じように、一回戦だけで満足してしまう人もいるだろう。むしろ二回戦以降を行う人の方が珍しいのかも知れない。正樹にはよく分からなかった。
 正樹は彼女と目が合った。いや、彼女の見つめる目に吸い寄せられたと言ってもいいかも知れない。
 正樹はおもむろに立ち上がり、彼女の待つ簡易ベッドに向かった。
――身体が動けるとすれば、このタイミングしかなかったな――
 と感じたが、それを彼女が知っているかのようで、正樹は驚いた。
 だが、これは後で知ったことだが、いくら身体が憔悴していて、脱力感に溢れていても、いったん起き上がるという決意ができれば、案外と動けるものだ。要するに身体を動かす決意ができるかということが重要なだけで、その感覚にならなければ、いつまで経っても起き上がることはできない。
 逆に起き上がる気持ちになれば、いつでも起き上れる。ただそれは起き上がる気持ちになった時に一気に起き上れるかというのが重要で、その時少しでも戸惑いがあって起き上がることをやめてしまったりすると、二度と自分から起き上がることができなくなってしまう。それも、男が快感に達した後の脱力感と憔悴に身を任せている時に感じる、唯一の感情なのだ。
 女性が男性のそんな性質を知っているとは思えない。いくら彼女が百戦錬磨であっても、そこまでは分からないだろう。正樹は分かっていてほしくないと思った。そこには男のオンナに入られたくない部分が潜んでいると思ったのだ。
 それさえなければ風俗を悪いことだとは思わない。むしろあってしかるべきだと思っている。自分勝手な発想でしかないが、究極、風俗と言うのはそんな自分勝手な妄想を満たしてくれる場所なのではないかと思うのだった。

                  中和
作品名:感情の正体 作家名:森本晃次