影惑い 探偵奇談19
「集合」
主将、神末伊吹(こうずえいぶき)の号令で、部員が集まる。体験入部、ひやかし仮入部期間が終わり、新入部員11名を迎えた新生弓道部がいよいよスタートする。休みは殆どないし稽古は厳しい。そんな弓道部の現状を目の当たりにしても残った一年生は、いうなれば戦力足りえる資質を備えている。地区予選突破、県大会制覇、そしてインターハイ。目標は常に高く、部員の士気も同様であるこの部において、中途半端な気持ちは不要であると、副将の瑞は考えている。自分に対しても同様だ。常に高みを目指すという姿勢を貫かなければ、このひとを支えることが出来ない。主将の伊吹をそばで見てきて、そう思うのだ。
「正式に入部した一年から、軽く自己紹介してもらう」
経験者は二人。あとは初心者だ。しかし緊張した面持ちの全員に強い意思が見て取れた。仮入部期間中に、先輩達の真剣な姿を目の当たりにした上でここに立っているのだから当然だろうと思う。
続いて二年生からの挨拶。
「一之瀬郁です。よろしくお願いします」
早気を少しずつ克服している郁が、にこやかに頭を下げた。ほんわかと微笑んでいるけれど、彼女もまたここで高みを目指す者の一人だ。決して手を抜かない真剣さを、瑞は尊敬している。
「今日から一カ月、実習生の須丸先生にご指導いただくことになった」
続いて伊吹が紫暮を紹介する。きたあ、と瑞は背筋を伸ばす。授業に加え部活でも…。怖い、おっかない、絶対俺にだけキビシイ…。
「須丸紫暮です。よろしく」
「当分の間一年は、三年と一緒に射法八節の基礎を繰り返す。経験者も同様だ。今日は二年から的前に入るように」
「はい!」
伊吹の掛け声により、瑞は郁ら二年生とともに的の準備に入る。
「しかしごっそり減ったよな」
主将らとともに射法八節の基礎に入った一年生を見て瑞は言った。たしか仮入部や見学者を入れて、一日に20人は弓道部に押し寄せていたのだが。
「殆どは、部活紹介のときの主将の射とか、須丸くんに憧れてきた子だったみたいだから。厳しい部活だってわかって、辞めてっちゃったね」
「不純だよ」
「あたしも宮川主将に憧れて入部したクチだから…一年生のこと不純って言えないけどね」
作品名:影惑い 探偵奇談19 作家名:ひなた眞白