影惑い 探偵奇談19
「縁…」
制服の中をすり抜けながら颯馬の声に耳を傾ける。思えば京都からこちらに来てから、「縁」という言葉は絶えず自分を取り巻いている。特にそれは伊吹との関係において、切っても切れないものである。
「縁の紬ぎ方っていろいろだからね。自分で呼び込む縁もあれば、向こうから無理やり結ばされる縁もある」
「無理やりって…怖すぎだろ…」
「瑞くんはあの魔のモノに執着されてる。執着される縁っていうのは…悪意とか憎悪とか独りよがりの類だけどね。復讐であるとか、復縁であるとか」
執着…。あの錐のひと突きにも似た冷たい笑みを思いだす。
「夕島柊也、って生徒、知ってる…?うちの高校にはいないみたいなんだけど。おまえ顔広いから知らないか?」
誰、と颯馬が言う。
「その変なやつの名前?相手が名乗ったの?」
名乗ったわけではない。なぜか瑞が知っているだけの話だ。それを告げると、颯馬はますますわかんない、と零した。しかし。
「ん、待って…夕島、夕島、最近聞いたぞ?」
「知ってるのか?」
「えっとねえ…」
颯馬はしばらく記憶を手繰り寄せるように目を閉じていたが、やがてスマホを取り出して誰かに電話を掛けて始めた。瑞はそれをじっと見守る。胸騒ぎが、する。
「あ、ルイちゃん?俺だけどー。ねえこの前高校の先輩が死んじゃったとか言ってなかった?そうそう。なんてヒト?」
死んじゃった先輩?何の話をしているのだ。瑞はただならぬものを感じて足を止めた。ほどなく通話を終え、颯馬は珍しく神妙な顔をして瑞を振り返った。
作品名:影惑い 探偵奇談19 作家名:ひなた眞白