影惑い 探偵奇談19
駄目だ、今はどんな答えであろうと自己嫌悪にしかならない。瑞は軽く頭を振って、余計な思考を追い出した。
「おはよ瑞くん」
「颯馬(そうま)」
昇降口で天谷颯馬(あまたにそうま)が声を掛けて来た。沓薙山の四柱を祀る神社の子だ。神様のお使いである彼とは、これまでも不可思議な事件で助けられたり助けたりしてきた。二年生になっても、派手な顔立ちは相変わらずである。
「お狐さんに聞いたんだ。なんか厄介なのに目ェつけられてるんだって?」
夕島のことか、と瑞はげんなりと息をつく。どこでどのように目をつけられたのか…。自分の高校生活を脅かすのはやめてほしいと切実に思う。
「そんな顔しなさんなって。はい」
颯馬は制服のポケットから取り出したものを瑞に差し出す。
「鈴?」
朱色の根付けの先に、ビー玉くらいの銀の鈴がついている。颯馬が根付の先を持って振ると、チリリンと涼し気な音をたてた。
「魔除けのお守り。力は弱いけど、少しは役に立つはずだから」
「…ありがとう」
並んで歩きながら、颯馬はあれやこれやと尋ねてくる。この土地で起こる不可思議なことは彼にとっても無関係ではないから、何かしら対策を考えてくれているのだろう。
「ほんとに身に覚えない?」
「…うん、ない。ないはず」
「そっかあ。でもまあ向こうからしたら、何かあるんだろうね。縁(えん)をもってしまうようなことが、かつてあったんだと思うよ」
作品名:影惑い 探偵奇談19 作家名:ひなた眞白