影惑い 探偵奇談19
「ぷっ」
腹の底から愉快な気分になってしまい、郁は思わず吹き出していた。
「そこ何笑ってる!」
振り返った瑞が信じられないという面持ちで怒る。
「ご、ごめん、須丸くん…なんか、面白くなっちゃって…」
「はあ?俺怒ってんだけど!」
「ごめん、ごめんね、でも、あはっ!」
郁が大笑いするのを、憮然と見ていた瑞だったが、やがて彼もほんの少し笑った。
「変なやつ」
行ってしまった。
(なんか、少しすっきりしてる…)
瑞の気持ちを聞いてすっきりしたのかもしれない。自分のもやもやしたものを少しだけぶつけて、それでもなお、見捨てずにいてくれる彼の態度に、この厄介な恋心が満足したのかもしれない。なんて自分勝手なんだろうと、郁はまたしても自分に呆れてしまう。
でも、よそよそしく接していたこれまでよりは、余程いい。そう郁は思うのだった。
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作品名:影惑い 探偵奇談19 作家名:ひなた眞白