影惑い 探偵奇談19
どれくらいたっただろう。瑞がそっと体を離して、郁の顔を覗き込む。
「…ちゃんと言うまで、俺しつこく追及するから」
怒ったように言ったのち、彼はフイとソッポを向いた。拗ねた子どものように。
「い、言えないっていってるじゃん!」
「だめ!俺ヤダもん、こんなの!」
怒っている。郁も負けじと言い返す。
「…絶対言わない!」
「言わす!」
「な、なんでそんな意地悪言うの!?」
「一之瀬のが意地悪だ!ずるいだろ!」
「ず、ずるい!?」
ずるい!と瑞は断言した。郁は、もうぐうの音も出ない。だって、意地悪でずるいと言われるのは当然で、その通りだから。言い返せない。
「一之瀬は俺を侮ってる。それが一番ムカツク」
しばらく黙したのち、瑞が呟くように言った。
「どんな答えでも、俺がそんな簡単に一之瀬を嫌いになったりすると思ってるの?本気で?逆の立場だったら、俺は絶対そんなこと思わない」
「……」
「…それがまじで悔しいわ」
そう言うと瑞は踵を返した。
「そういうわけだから、俺今後はおまえに対して遠慮しない」
「え、ええ…?」
「言いたいことは言わせてもらう。絶対口割らせて、何考えてるか聞きだすまであきらめない!」
ズンズンと怒ったように地面を踏みしめて、彼は戻っていく。郁は、ぽかんとその背中を見つめていたが。
作品名:影惑い 探偵奇談19 作家名:ひなた眞白