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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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影惑い 探偵奇談19

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「本当にそれだけ?」

まっすぐに見つけてくる瞳。目を逸らした。このまっすぐな視線に嘘をつくことに対して、恐ろしいくらいの罪悪感が浮かんでくる。裏切者だ、自分は。どんなときにも誠実な彼に対して、嘘で取り繕うなんて。

「本当のこと言って…」

郁の両肩に手を置いて、彼は途方に暮れたように項垂れる。弱弱しいその声色に、郁は胸を打たれた。

「…だってあたし、本当のこと言ったら、嫌われちゃうもん…ドン引きされて絶交されちゃう…」

涙も、溢れてくる感情も、郁にはもう止められなかった。瑞が驚いたように目を見開く。

「須丸くんに嫌われたら、もう生きていけないもん…」

嫌うわけないだろ、と半ば怒ったような声で瑞が郁を見つめてくる。

「言ってよ一之瀬…頼むから」

好き。大好き。好きで好きで、もうどうしていいかわからない。
須丸くんもあたしを好きになって。お願い。そしてもう、他の女の子に優しくしないで。笑ったりしないで。ずっとずっとそばにいて。

こんなこと、絶対に言えない。

「言えないんだよ…」

その瞬間、肩に置かれた瑞の手に力がこもるのがわかった。そのまま遠慮がちに引き寄せられて、郁の頭が瑞の胸に収まる。大好きな香水の匂いに包まれる。瑞はもう何も言わなかった。そのまま、時間だけが流れていく。ざわざわしていた心が、静かに静かに凪いでいく感覚。体がぽかぽかしてくる。高ぶっていた気持ちが落ち着き、どろどろしたものが浄化されていくのがわかる。嫉妬やエゴが消えて、ただ単純に、彼に対して大好きだという純粋な思いだけが沸き上がってくる。

(…そうだ、こういう感じだった。好きっていうの)

焦ってばかりで、少し遠ざかっていたのかもしれない。このひとをただ純粋に好きだと思う気持ち。独り占めしたいとか、自分のものにしたいとか、そういう感情ばかりが先行していたけれど。心の中にまずあるのは、こういう温かい思いだったはずなのだ。郁はそれを久しぶりに感じた。

作品名:影惑い 探偵奇談19 作家名:ひなた眞白