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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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影惑い 探偵奇談19

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初めて会う?違う、どこかで会っている…。俺はこいつを、知っているはずだ…。

「俺の名前、言えるよね?」

気安く声を掛けてくるくせに、その言葉には有無を言わせぬ強制力がある。

「ゆ、」

乾いた唇が、瑞の意思に反して動く。その名前は忌むべきものなのに、口にしてはいけないのに。命じられれば、逆らえない。

「夕島(ゆうじま)…」
「はい正解」

それは昼と夜の境目に立つ者。逢魔が刻に現れて、日常に差し込む魔。

「カワイイ同級生。優しい先輩。愉快な友達。頼れるオニイチャン。青春を謳歌して楽しそうで何よりだけど、俺のこと忘れてない?ひどいなあ。こうして時々おまえの前に出てきてやらないと、俺のこと忘れちゃうでしょう?」

距離を詰めてくる人懐っこい笑顔。後ずさる。本能が危機を告げている。これは危険な存在だと。

「会いに来たんだ。遊ぼうよ瑞」
「来るな…」

蠱惑的な笑みを浮かべ、夕島は近づいてくる。背中には、扉。ここを開けて脇目もふらずに走れば逃げられる。逃げられるのに、出来ない。一瞬でも、目の前のこれから目を逸らすことが、恐ろしくてたまらなかった。

「逃げられると思ってる?」

愉快だと言いたげに、夕島は笑う。なんという冷たい笑みだろう。瑞は息を呑んだ。

「逃げられないよ。華やかなおまえの人生にも、ちゃんと影は落ちるんだから。足元を見てみろよ」

凍り付いたような眼球を何とか動かし、瑞は己の足元を見た。夕日で出来た長い長い自身の影。

「光と影は表裏一体。光が強いほど、影は濃くなり力を増す。善と悪もまた同じ。幸福と不幸もね。この世に存在するすべての物が、二つの顔を持っている」

夕島には、影がなかった。

作品名:影惑い 探偵奇談19 作家名:ひなた眞白