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星の流れに(第三部・焦土)

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12. エピローグ・スカイツリーを仰ぎ見て



「それからお祖母ちゃんはしっかり勉強して看護婦になったんだね?」
「ええ、そうよ、幸子姉のおかげでね、あたしが看護婦になれた時にね、狭い下宿から出て二人でアパートを借りて住んだわ、あたしが結婚するまで」
「幸子おばさんはその後どうなったの?」
「最後まで結婚はしなかった、看護婦の仕事に生涯を捧げたの、でもあたしの結婚はすごく喜んでくれた、子供達……あなたのお父さんや叔母さんも凄く可愛がってくれたわ、『肉親を全部亡くしちゃって、結婚もしなかったけど、あたしにも家族が出来た、甥や姪もできた、あなたが妹になってくれたおかげ……』って言ってくれた時は本当にうれしかった、独りぼっちにならずに済んで、看護婦にもなれたのは全部幸子姉のおかげ、それなのにあんなに喜んでくれて……少しは恩返しできたのかなって今でも思うわ……幸子姉は六十五歳まで看護婦を続けて七十七歳で亡くなったわ……最後はあたしが看取った、本当の肉親じゃないからお墓を建ててあげられなかったのが残念だったけど、静子姉と同じ共同墓地に眠ってるわ」
「今でもお墓参りを?」
「もちろんよ、静子姉と幸子姉の命日はね、年も月も違うけど同じ二十一日なの、だから毎月その日にはお参りしてるわ」
「今日は二十日だよね」
「ええ」
「一日早いけど、これからお墓参りに行かない?」
「ええ、一緒に行ってくれるなら嬉しいわ、二人もきっと喜んでくれると思う」
「じゃあ、そろそろこの店出よう、日が暮れると寒くなるから」
「そうしましょう……でもいいの? もうすぐ引っ越しなんだから忙しくはない?」
「大丈夫、今日は丸々一日空けてあるから、それに静子さんと幸子さんが居なかったら僕もこの世にいないんだから、ないがしろにしたら罰が当たるよ」
「そういうことになるねぇ」
「それだけじゃないよ、今、僕たちが暮らしている日本を守って、支えて来てくれた人たちなんだよ、関西に行っちゃったらちょくちょくはお参りできなくなるだろ? 今日お参りしなかったら今度はいつできるかわからないからね」

 連れ立って外に出ると、和貴は祖母に手を差し出した。
「なに? 手をつないでくれるの?」
「大変な時代を生きてきたお祖母ちゃんだからね、労わらないと」
「うふふ、嬉しいねぇ、誰かと手をつなぐなんていつ以来かねぇ」
 静枝は差し出された手に手を重ねた。
「今日は話を聞けて良かったよ」
「そうかい?」
「今まで日本と言う国があること、豊かで平和であることって、当たり前みたいに思ってたんだ、でもわかった、それはお祖母ちゃんたちが守って、築き上げて来てくれたものなんだって」
 和貴の手に少し力がこもる。
「あの戦争のことって、日清、日露戦争に勝った軍部が暴走して起こした物なんだって思ってた、そう教わった記憶もあるよ……でも本当は違った、戦わなければ日本は解体されて植民地にされる、その苦渋の選択だったんだって、日本を、故郷を、家族を守ろうとして戦ったんだって……平和って当たり前にあるもんじゃないってのもわかった、戦争を起こすことには今でも反対だけど、戦争にならないように努力することは大切だけど、それでも逃れられないこともあるんだって、平和な世の中に慣れ切ってそれを忘れちゃいけないんだって」
 そこまで話して、和貴はふと微笑み、手の力も緩んだ。
「これからは僕たちが守って行かないとね」
「そうね、それもできれば……」
「うん、できれば戦争と言う手段じゃなくてね」
 重ねた手掌のぬくもり……静枝はそれを頼もしく思った。 
 振り返ってスカイツリーを見上げると、それは夕日に輝いて堂々と立っている、今の日本の平和と繁栄を象徴するように……。
 そして思った……誰だって戦争は嫌だ、二度と起こしてはならない、だが、戦争を起こさないためにはどうしたら良いのか……平和平和と唱えるだけでそれが実現できるはずもない、和貴はそれをわかってくれた、具体的にどうすべきなのか、それは若い世代に託せば良い、これからの日本を生きて行くのは若い世代なのだから。
 でも一人でも多くの若者に戦争の真実を伝えなければ……悲惨な体験として伝えるばかりでなく、あの頃の日本人がどのように考え、何を思って戦っていたのかを伝えなければ……。
 看護婦を引退した今、自分にできる事、自分がすべきことはそれなのだと思う。
(静子姉、幸子姉……あたしの戦いはまだもう少し続くみたい……でも命ある限り戦うわね……平和を守るための戦いを……)
 静枝はそう心に刻み込んだ。

(終)

作品名:星の流れに(第三部・焦土) 作家名:ST