小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

夢先継承

INDEX|19ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

「その通り、皆が電車でジャンプすれば電車の中の同じ位置に落ちてくるということを最初に見ているから、それを当たり前のことだと思っていたんでしょうね。目の前で起こっていることが何にもまして真実なんだから、思い込みというにはひどいくらいの錯覚に違いないですね」
 麗美はその時のことを思い出して、箱を見つめた。
――私が気になったのは、この箱なのかも知れないわ――
 麗美は、玉手箱を思い出していた。
――あの話も時間を一気に飛び越えるお話だったわね。それを思うと、パンドラの匣の発想と、玉手箱の発想がまったく無縁だとは言えないような気がするわ――
 と感じた。
 慣性の法則というのは、それだけ汎用性があって、一見無関係に見えるものをも結びつけてしまう魔法の法則なのかも知れない。
 麗美は、目の前の箱を何度か揺らしてみたが、中に入っているものの見当がついていなかった。
 しかし、おかしなことが頭をよぎってもいた。
――今は見当がつかないことのように思っているけど、実際に箱を開けて、その正体を見ると、最初からなんとなく感づいていたように思えるんじゃないかしら?
 と思えた。
 箱は次第に重たさを増しているようで、さらに大きさも最初よりも大きくなってきているかのように思えた。目が慣れてくると小さくなっていくものだと思っていたのに、どうしたことなのだろう。
 最初、箱を横にして縦にして、さらにひっくり返してみたりしたが、どこに秘密があるのか分からなかった。何の変哲もない箱を商品として売っているのだから、どこかに何か秘密が隠されているはずだった。
 いろいろ触ってみたが分からなかった。それはきっと麗美の中に、秘密が隠されているという興味はあったが、自分の中で現実性を考えた時、秘密に対する矛盾を感じたことで、秘密があっても、自分にはそれを解き明かすだけの力がないと思い込んでしまったのではないだろうか。
 麗美はそこまでその時は分からなかったが、友達に見せると、
「ああ、ここですよ」
 と言って、ニッコリとしながら、箱の横の部分のさらに下に、指を挟むだけの隙間があることに気付いたようだ。
 一見、分かるものではないが、麗美のように最初から秘密があると思って見ていれば、そんなに難しくないはずだった。それなのに発見できないということは、麗美の頭の中が柔軟性を持っていないということなのだろう。
 友達は、
「開けてみるけどいい?」
 と、麗美に断ってから、つまみを引っ張った。
 麗美は友達がつまみを引っ張る前から、何となく分かっていたような気がした。
――ああ、あの中に箱が入っているんだわ――
 自分で確認した時には分からなかったのに、他人に任せた瞬間分かったというのも皮肉なものである。
 いや、皮肉というよりも、他人が見ることで、まるで自分が見ているような気になると、そこに気楽さが生まれてくる。だから考察力に余裕が生まれ、それまでできなかった発想をできるようになるのだ。
 この発想が他の人でいう、
「普通の発想」
 なのか、それとも、
「秀逸した発想」
 なのか、麗美には分からなかった。
 だが、その時の麗美はいきなり閃いた気がしたのは事実だし、他の人の発想とは少し違っているように感じたのだ。
 友達が箱を開けると、その中には、また箱が入っていた。
――初めて見るはずなのに、以前にもどこかで見たことがあるような気がする――
 と感じたので、旅館の人に聞いてみた。
「これは箱の中に入れ子になっているお土産もので、他の観光地にもあるものですよ。元々はロシアのお土産で、人形の中に人形が入っているというマトリョーシカというお土産が元になっているらしいです」
 と教えてくれた。
「何とも面白いですよね。まるでからくり人形のような感覚で見ることができますね」
 と友達がいうと、
「一見、何の変哲もないものなんですが、考えれば考えるほど奥の深いものなんですよね」
 というと、
「私が発想したのは、無限という発想なんですよ。自分に前後に鏡を置いた時、自分の姿が無限に鏡に映しだされるような感覚ですね」
 と、麗美がいうと、
「私は、算数の割り算を発想しました。数字をずっと二で割って行った時、どんどん小さくなるけど、絶対にゼロにはならないでしょう? それも無限の発想に近いんじゃないかしら?」
 と友達が言った。
「皆さん、そうやってこの箱一つから、いろいろな発想をされているようで、私はそれが楽しみなんですよ。一つ言えることとして、その人が最初に発想したその内容が、その人の性格を表しているのではないかとも思うんです」
 麗美は、その話を聞いて、その日にその旅館に泊まったというのは偶然ではないような気がした。
 その思いは友達にもあるようで、
「私がこの旅館を観光ブックで見つけた時、ピンとくるものがあったのよ。他にも綺麗なホテルとかもあって、女の子ウケするところもあったのにどうしてここにしたのか、自分でもその時の気持ちをさっきまで思い出すことができなかったのよ」
 と言っていた。
「さっきの箱を見たことで思い出したの?」
「そういうわけではないと思うんだけど、でも旅館って何か秘密めいたところがあってこその旅館だって思うの。ホテルなんてどこでも同じように感じるけど、旅館となると違っているんだわ」
 と言っていた。
「私はさっきの箱をお土産として買っていく気はしなかったんだけど、どうにも惹かれるところはあったは、でもどうして買わなかったのかというと、また近い将来、同じものをどこかで見つけるような気がするの」
 というと、
「ひょっとすると、麗美は以前、似たようなものを見たことがあって、それをずっと忘れていたけど、さっき箱を見ることで思い出したと思っているんじゃない?」
 という友達にビックリして、
「どうして分かったの?」
 と聞くと、
「私も同じような感覚になったからよ。どこで見たのかまでは思い出せないんだけど、絶対に過去にどこかで見ていると思うのよ。それが最近だったのか、それともずっと前だったのかということすら分からない」
 友達の話は、いちいちもっともなことだった。友達に言われて初めて、
――言われるたびに、もっともだと思うのに、前に自分が感じていた思いだと感じるのもおかしなものだわ――
 と思った。
 麗美はデジャブという言葉を最近本で読んだ。
 デジャブというのは、行ったことがなかったり、見たことがないはずのものを、
――以前、どこかで――
 と感じることをいう。
 この感覚は子供の頃からあったが、詳しく知らなかったし、自分だけの思い過ごしなのかも知れないとも思っていた。
 あとから調べてみると、
「デジャブというのは、自分の錯覚を元に戻そうとする反動のようなもの」
 という研究結果があることを知った。
 もちろん、科学的には証明されているわけではないので、いろいろな学者がそれぞれに仮説を立てていて、諸説が入り乱れている。
 しかし、麗美は最初に見たその仮説を信じた。
 それ以降、他の学者の説をいろいろと目にすることもあったが、どうしても最初に見た仮説よりも信憑性に欠けるのだ。
作品名:夢先継承 作家名:森本晃次