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夢先継承

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 と思ってきていることだろう。
 それだけ麗美が来るのが早すぎるからで、一番だと思っていた人からすれば、自分よりも前に誰かがいるというのは、ある意味では許せない気分ではないだろうか。
 自分を正当化させるために、二番目に来た人は、最初に来ているその人が、いつも一番であってほしいという気持ちになるのではないかと思うと、何ともいじらしさのようなものが感じられた。
 三十分近くも前に待ち合わせ場所に来ていると、誰もが、
「そんなに早く来て、何をしてるの? 時間が余って仕方がないでしょう?」
 と思うのだと感じるが、麗美にはそんな思いはない。
「三十分なんてあっという間よ。人の流れを見ているだけで、すぐに経ってしまうわ」
 と答えるが、これは本心である。
 聞いた人は、言い訳のように聞こえるかも知れない。だが、麗美は言い訳をしているつもりなど微塵もなかった。
「時間の感覚なんて、慣れと、その人の感性でいくらにでもなるものなんじゃないのかしら?」
 と感じていたからだ。
 その日、麗美はいつもの時間に来てから友達がやってくるまでの間、いつもよりも時間が長かったように感じた。
 だが、友達が現れたのは、約束の時間の十分前だった。本来なら、
「少し早いわね」
 と言われるくらいの時間で、ちょうどいい時間という表現をするとすれば、早い時間の範囲のギリギリのところなのかも知れない。
 友達は親の車で送ってもらっていた。
「麗美ちゃん、旅行中はよろしくね」
 と、お母さんから言われ、
「分かりました。任せてください」
 と、元気に答えた麗美は、急に大人になったような気がしたのは、大人に認められた気がしたからだった。
 だが、すぐに我に返って、お母さんの社交辞令であることに気付いた麗美は、急に自分の態度に恥ずかしさを感じた。
「じゃあ、お母さんは帰るわね」
 と言って、車に乗り込む母親を見送る友達の目は、少し冷めていたように思えた。
「さて、それじゃあ行きましょうか?」
 ここから先は、主導権を友達に渡して、麗美は彼女にくっついていくだけだった。
 ホームに行くと、すでに乗り込む列車は到着していた。
「二号車だわ」
 と言って、麗美を引っ張っていく彼女が、急に頼もしく感じられた。
 お互いに子供同士の旅は初めてのはずなのに、友達がやけに堂々としているのを見ると、少しビックリさせられた気がした。
――これなら、親の反対さえなければ、一人旅をしても、別に問題ないわよね――
 と感じた。
 二号車には指定席のマークがついていて、さっそく乗り込むと、それまでの喧騒としたざわつき感があったホームとは違い、車内はいかにも密室と思わせるような空気が存在していた。
――なんとなく眠くなってしまいそうだわ――
 と感じさせられ、友達に誘導されて、座る席を探していた。
 二人掛けの席にちょうどなっているので、二人だけの世界を作ることができた。だが、車内の密閉された雰囲気の中では会話もままならないような気がして、かなり音を立てないように気を遣わなければいけないと思えた。
 だが、いざ座ってみると、まわりから、ざわついた音が少しだけ聞こえてきた。
――別に音を立てないように余計な気を遣う必要はないのかも知れないわね――
 ざわついた音は、密閉した空気に支配され、煩わしい音に感じることはなかった。少々くらいの会話なら、まわりに迷惑をかけることがないように感じられた。
 座席は、友達が通路側で、麗美が窓際だった。席についてまわりの雰囲気を読み込もうとしている間に時間が経っていたようで、やっと落ち着いて窓から表を見ると、すでに列車は発車していた。
――なんて静かなのかしら?
 今まで新幹線はおろか、在来線の特急列車に乗ったことのなかった麗美は、特急列車の独特な雰囲気に戸惑っていた。
 友達は。疲れていたのか、座席に座って少しすると、睡魔に襲われたようで、そのまま眠ってしまっていた。麗美はその様子に少し安心感を覚え、自分はその間に車窓から表を眺めることができることを喜んでいた。
 各駅停車で感じた、車輪が軋む音は、ほとんど感じられない。
「ガタンゴトン」
 という列車特有の音が好きだったのに、特急列車では完全に籠って聞こえるため、しているのかどうかすら分からないくらいだった。
 それでも、特急列車の車内は新鮮で、嫌いではなかった。
――彼女が眠くなるわけが分かった気がするわ――
 と思って、まわりを見ていると、半分ほど座席が埋まっていたが、そのさらに半分以上の人が座席で眠りに就いていた。
――私は眠くならないみたいなんだけど――
 と、眠くなりそうな気がしているにも関わらず、どうしても眠ることのできないやるせなさのようなものも感じるようになっていた。
 普段も、
――このままなら眠ってしまいそうなんだけどな――
 と感じている時、せっかく途中まで気持ちよくウトウトした気分になっているにも関わらず、急に睡魔がどこかに行ってしまったということが何度かあったような気がした。
 その理由がどこにあるのか、ずっと分からなかったが、その理由が昼間であるということを感じるようになると、ウトウトしてはいるが睡魔に辿り着かない中途半端な気持ちになるようなことが頻繁に起きてきた。
 友達が眠ってしまったのをいいことに、少し車内を散策してみようと考えた。
――どうせ、まだまだ電車に乗っていないといけないから――
 と思い、友達を起こさないようにして座席を立ち、まずはトイレで用を足して、車内の散策に向かった。
 特急列車の車内は、思ったよりも空いていた。自分たちの乗っている車両も乗客は半分くらいいたが、半分もいるような感覚がないほど、ほとんどの客は気配を消しているかのようだった。自分たちも眠ってしまったのだから人のことは言えないが、これが列車の魔力のようなものだと思うと、列車に対して興味が出てきた。
 普段乗っている普通電車とは明らかに違っている。モーター音が籠っていることからもそれはすぐに分かった。音が籠っているだけで、何か高級感を味あわせてくれるのだから、音というのは魅力的なものなのだろう。
 隣の車両は、自分たちの車両よりもさらに乗客は少なく、十人も乗っていないような雰囲気だった。半分の人は眠っていて、それ以外の人は雑誌や新聞を読んでいて、車窓から景色を眺めている人は一人もいなかった。
――どうしてなのかしら?
 電車に乗った時は、車窓からの眺めを見なければ我慢できないタイプの麗美から見れば、風儀で仕方がなかった。寝ている人はまだしも、起きている人が皆車窓に興味がないということなのだろうか。
 冷静に考えれば、麗美の方が珍しいということは分かったのかも知れない。麗美は毎日同じ路線の同じ駅を行き帰りのいc日報復を繰り返しているだけであった。毎回同じ風景で、変わり映えがするわけではない。毎日何か新しいものを発見できるわけでもなく、発見しようとも思っていない。
 それでも車窓を眺めていないと我慢ができない。
作品名:夢先継承 作家名:森本晃次