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夢先継承

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 麗美にも分かっていた。
「そんなものは、新しく目標を持てばそれでいいだけのことよ」
 と言えばそれまでだろう。
 だが、目標を一つ持って、達成することにすべてを掛けている人が、達成したと同時に新たに目標を持つということは無理があると思っていた。これはタイミングが問題である。
 達成するよりも早く別の目標を持つと、達成するはずだった目標を見失ってしまう可能性もある。
 かといって、目標を達成してから、あるいは、達成したのと同時に新たな目標を見つけたのであれば、その時にはすでに孤独感、虚脱感、そして、今後の不安が自分の頭を支配している状態で、とても次の目標など持つことはできないだろう。
 アイドルになるということだけを目標にしていては、きっと行き詰ってしまうかも知れない。アイドルになるというのは、出発点であり、そこからどんどん新たな目標は生まれてくる。達成感が終着点だと思っているから、孤独や虚脱に見舞われるのだ。
「達成は、新たな出発のプロローグなのだ」
 と思えるかどうかが、その人の運命を決めると言っても過言ではないだろう。
 麗美が中学二年生になった頃、友達と旅行に出かけた。その友達は本当は一人で出かけたかったのだが、両親が許してくれない。それで麗美を巻き込むことで何とか旅行に出かけることに成功した。
 その友達とは歴史が好きだという共通点があった。今回の旅行の目的は、
「私、お城を見て回りたいのよ。その手始めに、まずは近場から攻めていきたいんだけど、近場でも、なかなか両親が旅行を許してくれないの」
 麗美としては、
「まだ中学生なんだから、子供が一人で旅行なんて、そりゃあ、ご両親は心配するんじゃないの?」
 というと、
「何言ってるの。もう中学生よ。一人旅が早すぎるという年じゃないわ」
 と言った。
「でも、私が一緒に行くと言っても、結局は子供だけで出かけることになるんだから、親からすれば、一人旅と変わらない感覚なんじゃないの?」
「そんなことはないわ。私の両親は、一人旅がダメと言っているだけで、誰かと一緒だったら。それがたとえ同級生であっても、問題ないと思っているわ。さすがに相手が男子生徒だと違う意味で問題があるんでしょうけどね」
 と言って、笑っていたが、
「そんなものなのかしらね。私には分からないわ」
 と、彼女の話に半信半疑だったが、彼女の親に話をすると、
「そう、麗美ちゃんとだったら、問題ないわ」
 と、彼女の言う通りで、麗美の考えていたこととはかなりの違いがあった。
 まるでキツネにつままれたような気がしたが、
「これでよかったのよね?」
 と彼女にいうと、
「ええ、これでいいの。だから、このお話はこれで終わり、あとは旅行を楽しむだけよ」
 と言って、すでに彼女の気持ちは旅先に向いていた。
 これが彼女のいいところであった。
 気持ちの切り替えの早さは、麗美にはないもので、尊敬に値するくらいのものに感じられ、彼女と一緒にいるだけで楽しくなってくる理由が分かってくるようだった。
 旅行に反対しなくなったと思った彼女の母親だが、いざ出かけることになると、今度は全面的に協力してくれるようだった。
「泊まるところの手配も、切符の手配も、すべてお母さんがしてくれたのよ。私が立てた計画をお母さんがそれなりに解釈して、二人でプランを立ち上げたの。これがそれなんだけどね」
 と、彼女はプリントアウトされた計画書を見せてくれた。
 計画は三泊四日で、列車の時間と、宿泊場所の地図、そして、時間配分もプランを三つくらい選定してくれているようで、麗美もそれを見ながら、自分なりに想像してみた。
 しかし、実際にその土地に行ったことがないので、あくまでも計画でしかないのだろうが、ここまで計画されていると、少々時間がずれても、修復は可能であることは十分に考えられた。
 ちょうど夏休みに入ってからすぐのことだったので、かなり暑いのは想像できたが、旅行先のコースは避暑地としても有名なところから少しずれたところなので、それほど暑くはないと予想もされた。
 しかも、観光地が近いとはいえ、お城がいくつか乱立している程度で、それ以外に有名な観光地もないコースには、さほど人が密集することはないと思われた。お城が乱立しているとはいえ、天守閣が残っているような観光ブックに載っている城ではなく、地元で有名なくらいの城や、城址なので、
――マニアくらいしかいないのではないか――
 と思わせる程度だった。
「私は、これでもマニアなのよ」
 と、友達は自慢していたが、
「何の自慢なのよ」
 と、麗美も笑って返したが、それ以上の会話がなかったのは、そこでお互いに納得が行ったからで、
――この納得が二人を友達にしたのかも知れない――
 と麗美は感じていた。
 麗美は、この友達と一緒にいる時、小学生の時に一緒だった晴美を思い出すことが多かった。
 小学生時代に数少なかった友達の一人が晴美であり、留美とは違った意味で友達として大切に感じていた。
――晴美は、私の知らないことをいろいろと教えてくれる友達だったんだわ――
 と思っている。
 教養のあることであったり、雑学的なことではなく、その時々で、
――これ、知りたかったことだわ――
 と感じさせることを教えてくれる、あとから、教えてくれたことに感謝の気持ちがこみ上げてくるというそんな感情にさせてくれるのが、晴美だったのだ。
 旅行の日が近づいてくると、友達があまり連絡をしてこなくなった。
「あれ? 本当に旅行に行くのよね?」
 と思わず、そう口走りたくなるくらいに音沙汰がなかtったのだが、旅行の二日前になって、
「連絡ができなくてごめんね。あさっては予定通り出かけるからね」
 と、元気な声で連絡が入った。
「ええ、分かったわ。連絡がなかなか取れなかったので、少し心配していたんだけどね」
 というと、
「ごめんね。やっと連絡ができるようになって、私もよかったと思っているわ」
 と、電話越しに聞こえてきた声は本当に安心しているように聞こえたのだが、最初の言葉で感じた元気なイメージとは矛盾しているように思えてならなかった。
―ー何かがあったんだわ――
 と思ったが、あれこれ聞くわけにもいかず、とりあえず、黙っておくことにした。
 約束当日には、駅で待ち合わせをしたのだが、最初に駅に到着したのは、麗美の方だった。
 誰かと約束をすると、約束の時間よりもかなり早く着いていないと気が済まないタイプの麗美は、自分が誰かを待たせたという記憶はなかった。
――当然、今日も私が最初に来ているんだわ――
 といつものように感じて駅で待っていた。
 到着したのは約束の時間の三十分前、普通そんなに早くから来ている人はいないだろうと想わせた。
 数人で待ち合わせをすると、一番早い人と、一番遅い人は、まず間違いなく同じ人だ。
「いつも、あいつは遅刻してくる」
 と、一番最後の人は結構目立つのだが、一番乗りしている人は、それほど目立つことはない。
 だが、二番目に来る人からすれば、
「いつも一番なの?」
 と、聞かれる。
 きっと、二番目に来た人とすれば、
――自分が一番に違いない――
作品名:夢先継承 作家名:森本晃次