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夢先継承

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 と感じていた。
 勉強であれば、テストや通知表の結果は、本人か肉親にしか分からないが、運動であれば、明らかにその場にいた人が見て判断がつくものである。体育の授業のほとんどは人との競争ではないか。陸上競技、水泳、球技、すべてにおいて誰が見ても得意不得意が分かる。クラス対抗の競技大会など、選抜されない人は、明らかに分かるだろう。
 最初から、
「体育の授業は嫌い」
 と言っている人は、明らかに苦手な協議があるからで、
「仮病を使ってでも、体育の授業を受けたくない」
 と思う人もいるに違いない。
 だが、留美の場合は違っていた。小学生にしては背も高く、スラリと伸びたその体型は均整のとれたものだった。
「きっと走らせると早いんだろうな」
 と、誰もがそう思っているかも知れない。
 それだけに、毎回のように見学している姿を見るのは痛々しいものだった。
 ただ、それも運動にコンプレックスを感じていない人だけで、コンプレックスを感じている人は、
――僕だって、体育の授業、できることなら見学していたいよ――
 と思っていたことだろう。
 留美には、その素直さに対しての憧れや慕う視線とは対照的に、嫉妬に近い視線を送っている人がいるということを、誰が分かっていたことだろう。ただ、誰にでも自分を慕ってくれる人もいれば、嫉妬を込めた思いを抱いている人もいる、留美に限ったことではないのだろうが、留美に対して憧れを感じている人は、
――彼女には、憧れを感じさせる要素があるんだから、彼女を悪く思っている人なんていない――
 と感じていたが、逆に彼女に嫉妬を抱いている人は、
――自分がこれだけ嫉妬心を掻き立てられているんだから、他の人も同じだよね。彼女に同情的な人なんていないだろうな――
 と思ったことだろう。
 それだけ、留美に対しての視線は、他の人に向けられる視線と違って、自分の主観がすべてではないかと思わせるところがあったのだ。
 そんな留美に対しての視線は、小学校を卒業するまでずっと続いていて、留美はその視線を感じていたのかいないのか、相変わらず素直さが前面に出ていた。
 中学に進学してきた留美は、自分が知っている留美とは少し違っていると感じた麗美だった。どこが違っているのか、最初はよく分からなかったが、その理由はすぐに分かることになった。
 麗美が中学に入学し、留美が小学六年生として編入してくるまでは、二人きりの時間が圧倒的だった。お互いに、光の部分も影の部分も知り尽くしている仲だったと言ってもいい。
 そんな留美のまわりには自分以外の人がいる。そして留美への視線を見た時、そこにあるのが両極端に対照的な目であることに気付いた麗美は、
――他の人には感じることのできない感情を、留美には感じてしまう――
 と、分かっていたはずの留美が見えなくなってしまいそうなことに、自分から距離を置こうと考えた自分に後悔していた。

                  お城めぐり

 その時に思い出したのが、途中で転校していった晴美だった。
――晴美は確か、アイドルになりたいって言っていたっけ――
 というのを思い出した。
 どこに引っ越していったのか分からないが、少なくとも今麗美が住んでいる街にいる限りでは、アイドルになりたいという夢を叶えることは難しいだろう。田舎というわけではないが、大都会のようにスカウトがうろうろしているようなところでもなく、アイドル養成学校もほとんどないに違いない。
「アイドルと言っても、昔と違って地下アイドルもあれば、同じアイドルでもバラエティであったり、教養関係に長けている人もいたりして、ただ歌って踊れるだけがアイドルだった時代じゃないからね」
 と、晴美が言っていたのを思い出した。
 テレビ番組などを見ていればよく分かる。
 確かにゴールデンタイムにある番組は、バラエティ色の強いものが多く、芸人であってもアイドルであっても、NGなしの人がよく出演している。歌番組もないではないが、同じグループの中でも歌番組にも出て、バラエティにも出演している人というのは、本当に一握りの人である。それだけ、アイドルも分業化されていると言ってもいいだろう。
 アイドルという括りよりも、アイドルグループという括りの方が一般的である。オーディションによって選ばれた人がプロダクションに所属し、中には同じグループでも、プロダクションの枠を超えた人もいたりする。
 さらには、一人の人が別々のグループに所属しているということも珍しくなく、一つの大きなアイドルグループの中で、枝分かれしたかのようなユニットが、いくつも発生したりしている。
 それぞれで活動していて、楽曲もリリースしている。
「複数のグループに所属していて、同日に活動がかぶったりしないのかしら?」
 というと、
「かぶっても、欠席ということで、どちらかに参加すればいいんじゃないの? そういう意味で、二人のユニットよりも、もっとたくさんの人数のユニットの方が多いのは、理に適っているんじゃないかしら?」
 と、晴美はそう言って答えてくれた。
 さすが、アイドルに憧れているだけのことはある。それなりに調べていたり、研究したりしているのだろう。そこには頭が下がる思いだった。
 最初の頃のアイドルグループは、一般公募で選ばれていたが、中にはそれをテレビの企画としてプロジェクトが立ち上がっていたりした。公募から始まって、アイドルが出来上がるまでの状況を、ドキュメンタリーのように放送し、視聴率も稼いだ。しかも、テレビで公開のオーディションなので、それだけ知名度は結成前からあったのだろう。
 最初は、番組に違和感があった人も、アイドルが結成されて、そのアイドルが一世を風靡するようになると、アイドルに対しての世間の見方も変わってきた。
 昔のアイドルというと、グループというよりも、一人の女の子がスポットライトを浴びるというイメージで、一人だけに、アイドルとしての要素を複数持っていないと、生き残っていけない世界だった。
 一人で分業制などありえるわけもなく、そういう意味では、公募によるアイドル養成を公開するというやり方は、画期的だったと言えるだろう。
 アイドルのプロデュースする人も、音楽関係のプロというよりも、その人自身が、シンガーソングライターだったりすることが、さらに画期的であった。自分の楽曲も売れて、さらに知名度も上がる。そんな時代が十年以上も前くらいにはあったのだ。
 その後しばらくは、一つのグループが、芸能界を牽引している時代が続いたが、やはり新しいプロデューサーが現れたことで、新しい時代を迎えることになる。
 その人は音楽関係者ではなかった。一人の作家だったのだ。
 作詞をすることから音楽に入り込み、そこでプロデュースのノウハウを勉強したのだろうか、いろいろな画期的な発想を打ち立てていく。
 オーディションでのグループ結成は変わらないが、その頃からブームになりかかっていた地下アイドルというのも、彼は目をつけていた。
 アイドルというと、どうしてもテレビに出たり、全国をコンサートで回って、大きなホールを満席にするというイメージが多いが、地下アイドルは、そうではない。
作品名:夢先継承 作家名:森本晃次