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短編集61(過去作品)

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 夢から覚めて掻いている汗が、そのまま空気に混ざってしまったのか、部屋に湿気を感じていた。湿気が女性の放つものと合致する感覚があった。女性を知らない山崎は、女性が潤うことを知らなかったのにである。
 湿気が妄想を駆り立てる。
 実際に知らない女性の身体を今にも感じているかのごとく身体が熱くなる。
 熱くなった身体が次第に固くなっていき、かなしばりにあったかのように動かなくなる。動かそうとしても麻痺してしまっていて動かないのだ。
 身体の一点に、血液が集中してくるようだった。この感覚は小さい頃からもあったのだが、異性を気にするようになってからも変わることはなかった。
 異性を気にするようになったのは、まわりの目を意識するところから始まったが、それはまわりあってのことである。一人になった時は、淫靡なイメージが付きまとい、夢では絶えず身体が反応していた。
 女性を好きになるという感覚が芽生えたのは、それから後のことだった。
 実際に女性と二人でいて、話をすることがとても新鮮だった。
 初めてデートという雰囲気を味わったのは、高校三年生だった。純愛ドラマを絵に描いたような雰囲気だったが、中学時代であれば絵になっただろう。
 相手は三つ年上の女性でOLだった。
 高校時代までは、まさか自分が研究所に残るようになるなど思いもしていなかったので、社会人の女性に憧れもあり、すべてが大人に見えていた。
 その彼女から、惚れるということについて教えてもらった。
「女はね。本当に好きになった人しか愛せないかどうかって分からないのよ。身体が一緒についてくるっていう感覚かしら? 女性は男性と違って急激な変化の中で成長してきたのよね」
 その話を聞いた時、女性の神秘さに触れたくなった。しかも彼女だけではなく、他の女性にも興味が生まれてきた。彼女は、自分だけが愛されていなくても我慢できないタイプではないらしく、そのあたりはあっけらかんとしている。
 しかし、少し信じられないところもある。
――自分だけでなくともいいという感覚は分からない――
 嫉妬という言葉、他人をあまり意識しない女性がいても不思議ではないので、持っていない女性もいるだろう。だが、それでは男は寂しいと思う。逆にそれを利用する女性もいるだろう。
 結局、駆け引きの中で男女関係が成り立っている。まるでゲームのようだ。それならばある程度もて遊んでもいいのではないか。これが、惚れ薬を考えようと思った一つの要因である。
 本能には逆らえないと思いながら、もて遊ぶことができるのであれば、人を好きになるということは本能の成せる業ではないだろう。そこに薬が介在するのであれば、人の意志を超えた薬であって、山崎の目指す世界でもあった。
 しかし、同じことを考えた人も過去にはたくさんいるだろう。どうして今までに出てこなかったのかと考えると、それだけ難しいものなのかも知れない。それだけにやりがいはあるというものだ。
 発明というのはある日突然に出来上がるものらしい。それこそ夢に出てきたことを組み立てていくと偶然出来上がってしまったりもする。
 偶然という言葉には語弊があるだろう。夢というのは元々潜在意識が見せるもの、自分の中にあった意識を夢という世界が完成させてくれたと考える方がスマートではないだろうか。
 惚れ薬もそんな感じだった。
 研究はある程度まで完成していても、そこから先が難しい。
「九十九をもって半ばとす」
 という言葉もあるとおり、最後の詰めが難しい。それは発明だけに限ったことではないだろうが、少なくとも山崎は痛感したのは発明に携わってからのことだった。
 今まで完成できなかったのが不思議なくらいだ。出来上がってみれば、何に悩んでいたのかすら忘れてしまっていて、すっと見えた光にすべてを任せればいいだけだった。それを自らに所有しているエネルギーだと感じるまでにそれほど時間が掛からない。恍惚の感情が支配する。
 ちょうど、教授も同じ時期に自分の研究が完成していた。山崎が自分の研究に没頭している間に進めていたものだ。
 教授の研究は山崎に比べて冷静だった。山崎も冷静でいるつもりでいたが、まわりを見ることができないほど没頭していて、それこそが研究に対しての姿勢だと思っていたのだ。だが、教授はそうではない。冷静にまわりを見ていて、山崎が研究に没頭していても、教授の視線に気付くことができるほどだった。
 冷静な視線の奥に冷徹な目を感じ、さらに一点に光を集め焼き尽くすようなレンズの役割もしていた。
「山崎君、君の研究は確かに素晴らしい、素晴らしいが……」
 意味不明なことを言われ、
「素晴らしいが……。そこから先は?」
 聞いてもすぐに答えてくれることはない。何かを言いたいのだろうが、言いたいことの本当の意味はきっと分からないと思えた。
 教授は研究室を自宅にも持っている。教授の研究の核心部分は、どうやら自宅で行われているらしい。いつも眠そうな眼ではあるが、その奥にギラギラした闘争心のようなものを感じる。それが徹夜での研究を示していた。
 教授は何の研究をしているかを決して明かしてはくれない。元々気難しいところのある教授がこの研究に没頭している間、ほとんど山崎と口をきくこともない。
 ただ、教授の口癖だけは覚えている。
「研究をするのはいいが、報いは覚悟しなければならない」
 何のことか分からなかった。発明というものを実際にしたことのない山崎に、きっと分からないことだと思っていた。
 何もないところから新しいものを作り出すことだけを追い求めている山崎である。
 子供の頃に見たロボットアニメ、これが一番の原因だった。
 開発する博士がいて、研究所があって、そしてメカがあり、主人公たちがいる。子供であれば主人公に憧れたり、単純にメカに憧れるだけであろうが、山崎少年はメカを建造した開発者に憧れた。
 白衣を着て研究所の主であり、メカや武器を作る。極端な話、パイロットは変えることができても、開発者に変わりはいない。それが開発に携わることへの興味を持った一番の理由だった。
 だが、アニメの世界で決して脚光を浴びることのない開発者だち、しかも、時には悪に利用されて、最後は殺されてしまうなどのストーリーもあったりした。
 そして極めつけは、開発者が主人公として出てくるアニメでは、開発者は悪の主人公であった。何かを開発していくのだが、いつしか悪に手を染めながら、理性との葛藤の中で、ストーリーが神秘に満ちてくる。その理由が明らかにされる時、開発者は主人公になれるのだ。確かにパイロットが主人公であるが、山崎にとって、そのアニメだけは開発者が主人公であった。
 教授が、
「研究をするのはいいが、報いは覚悟しなければならない」
 と言っていた言葉で思い出すのは、このアニメでの開発者であった。開発者が主人公になるには、必ず通らなければならない目に見えないレールがあって、逆らえないものが存在しているに違いない。
――神の領域――
作品名:短編集61(過去作品) 作家名:森本晃次