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短編集61(過去作品)

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 研究所員というのは、元々自我が強く、自分や自分の研究について人からとやかく言われることを嫌う。一匹狼的な考えの人が多いだろう。だから、そんな中でなかなか依頼心など生まれない。
 仕事の流れの中で存在する依頼は、あくまでも仕事上のことだけだ。誰もが、
――新しい発見や発明は、自分がするんだ――
 と思っているはずで、機会があれば他人を蹴落としてでもと考えている人もいるだろう。
 他人のことまでなかなか考えることがないので、あくまでも、
――自分なら――
 という考えでしかないが、山崎はまわりをそういう目でしか見ていなかった。
 だが、教授とのコンビネーションは違っていた。教授が心を開いてくれたことで研究にも今までになかった自我の部分と、他人の考え方の融合によって余裕というと言葉を初めて理解したように思えた。
 だが、教授の研究を見ていると、どこかに限界があるのを感じていた。教授もそのことに気付いているようで、
――なるほど、このストレスが他の研究員に向けられて、他の人が一年ともたない原因を作っていたに違いない――
 と感じるようになった。
 教授の研究は、確かに壮大で素晴らしいものだったが、それはあくまで仮説のもとに成り立っている。一般の人の理解を超えていると言ってもいいだろう。
「山崎君、君はどう思う?」
 教授に聞かれて、さすがに何と答えていいか、最初は無言だった。
「そうだろう。多分誰もが馬鹿げていると思うだろうね。だが、私の中では可能なんだ。何とか設計までこぎつけるまでに、何年掛かったことか」
 教授の年齢は確か四十五歳、しかし、すでに黒髪はなくなってしまっていて、完全な白髪になってしまっている。
 痩せ型ではないせいか、見た目は完全に五十歳を超えているように見えるが、それだけ研究所で同じ研究を続けてきた結果のように思えてならない。
――俺もそのうちにこんな風になってしまうのか――
 考えただけでもゾッとする。
 教授が今の研究を始めたのが、今から約十年も前だという。
 助教授の頃から、何か新しい発見をしたいと思っていたらしいが、なかなか実らなかった。そんな時、夢を見たという。
「実は今の研究の始まりは夢だったんだ。このことを話すのは君が初めてさ。他の連中は話を始める段階になる前に、皆辞めて行ったからね」
 と言いながら苦笑していた。
「夢の内容なんて、普通であればすぐに忘れてしまうものだ。だが、私は夢の中で必死になってメモッた。何かを発見したからだ。夢が覚めてしまえば忘れているに違いない。もちろん、メモが残っているはずもない。それでもメモッた。絶対に残っていてほしいって祈りながらね」
 居酒屋に初めて誘われた時の話である。研究室で話していたら、完全にウソっぽく聞こえていたかも知れないが、なぜか研究室を離れて居酒屋で呑んでいると、まんざらウソではないように思えてくるから不思議だった。
「目が覚めると、案の定、夢の中で何の研究をしていたのか覚えていない。半ば諦めかけようとしたが、机の上にメモだけが残っていたんだ。もちろん、具体的なものではない。漠然としたメモで、それを見ているうちにこの研究がいずれ日の目を見ることが目を瞑れば見えてくるようだったんだ」
 不思議な話である。さすがに居酒屋で聞いていても、信憑性はない。だが、少なくとも十年経った今、教授は理論上の設計にまで確実にこぎつけている。学会で発表するには時期尚早なので、もう少し研究が必要ということだが、間違いなく教授の研究の賜物であった。
「山崎君には、実験の際、いろいろ協力してほしいんだ。そのために、企画を打ち明けようと思ったのだ」
 居酒屋で初めて話を聞いて、実際に作業に取り掛かったのは、それから一月ほど経ってのことだった。自分の研究の作業があったからだ。
 自分の研究など、教授の研究に比べれば小さなものだったが、それでも初めての発表、緊張したことには違いない。教授は大人しくそれを待っていてくれた。
 居酒屋で一緒に呑んだことが、今後の仕事でどれだけ前向きな気持ちになれるかということを思い知らされた。
 居酒屋自体、学生時代からあまり行くことはなかった。
 大学時代もレポートや研究で、大学に泊り込み纏めることが多く、それぞれのグループはできていて、居酒屋に足を運ぶこともあったのだろうが、如何せん、山崎はどのグループにも所属していなかった。
――俺は一匹狼――
 と自負していたからだ。
 居酒屋でくだらない話をしているよりも一人で研究をこなしている方がよかった。大学生というと、勉強もせずに青春を謳歌するという名目で、遊び歩いている連中しか見えてこないことで、
――俺はあんな風にはなるものか――
 と思っていた。
 別に遊び歩くことが悪いとは思っていないが、集団でつるむのが見ていて醜く感じてくるのだった。
 一匹狼がいいというわけではない。だが、人と一緒にいて成長などありえないと思っていたからで、くだらない話に花を咲かせる時間がもったいなかったのだ。本当にくだらない話もそうなのだが、中には将来のことについて漠然と話をしている連中もいる。
――将来のことなんて、今を何も知らないくせにどうやって考えられるというのだ――
 あくまで過去があって現在がある。未来はその先にあるものだ。過去の積み重ねが現在、その基本が分からずして未来が分かるものか。
 山際は研究に没頭もしていたが、実は歴史にも造詣が深い。
 遊び心を持ちたい時や、気分転換には、歴史の本を読むことが多い。それも歴史上の偉人を見るのが好きだった。
 誰が好きというわけではないが、過去から現在にかけて、歴史の流れを追っていく中で、その時代時代で発想してきた人に興味を持った。
――俺ならこう考えるがな――
 と思いながら読んでいた。
 もちろん、時代背景の勉強もしているので、分かりやすい。
 他の人たちはそれを歴史の裏話として読んでいる話である。だが、山崎はそういう見方をしたくはない。その人の考えが自分の中での正論だとして見ているのだ。次第に自分の中で辻褄が合わないところが出てくる。なぜ合わないかを考えるようになる。そして、また時代背景を追いかける。
 歴史の勉強は反復することに意義がある。一度だけでは分からない。何度も見ているうちに厚みを感じてくる。
――ひょっとして違う世界が他にも広がっているかも知れない――
 などと究極の考えが浮かんでくるが、これが四次元の世界への発想に繋がってくるのだった。四次元の世界の発想がどこから来ているのか分からないが、何かを創造するのに、幾通りの発想があってもいいのではないかと思えてならなかった。
 教授の研究を忠実に見守っていた。あくまでも助手に徹し、教授を見続けているのが自分の仕事だと考えていた。
 発想は確かに奇抜なもので、下手に立ち入ってしまうのが怖いくらいである。
 最初の数ヶ月はまるで何かに取り付かれたように必死になって研究を続けた。
作品名:短編集61(過去作品) 作家名:森本晃次