小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ジャスティスへのレクイエム(第4部)

INDEX|6ページ/30ページ|

次のページ前のページ
 

 二回ほど、実際に襲われかかったことがあり、早急に飛び出してきた彼の活躍で事なきを得てきたが、実際には目に見えないところでマリアを襲撃しようという人がいないわけでもなかった。
 もちろん、マリアを王女と見て、拉致しようとしている輩たちなのだが、彼らにもそれなりに訓練を受けるだけの存在は、バックにあったようだ。
 そのバックが大きければ大きいほど、襲撃する連中のレベルも高い。攻撃すれば、少々の目的は達成できるはずなのだが、中には彼らでもどうにもならない相手もいる。彼らには執事がそんな相手に見えたのだ。
「あんな奴を相手にすれば、計画の失敗は目に見えている」
 と感じた。
 危険性があれば、正直に危険を組織に通告し、やめることもできる。ただ、その場合、組織の中での地位は著しく低下するのは仕方のないことだが、やめずに攻めてしまうと、まず間違いなく返り討ちにあると分かっていることに猛進するほど、彼らもバカではないだろう。
 そんな連中にマリアは遭遇したが、執事の目の黒さで、未然に凶行を防ぐこともできたのだ。
――やはり彼は偉大なんだ――
 と、マリアは結局彼にシャッポを脱ぐことになった。
 マリアの執事は。マリアの護衛というだけではなく、別命を密かに受けていた。実際にはこれが彼の本当の任務でもあるといってもいいだろう。彼自身はマリアの護衛もあるので、実際に別命を成し遂げるためのサポートとして、母国から彼のサポート役がやってきていた。
 彼は名前をジャクソンと言った。先祖は黒人のようで、少し名残は残っているが、そのあたりが男性として魅力的なのか、学生時代から女性によくモテた。
 ジャクソンは、そんな自分への自愛は強くなった時期があったが、それを執事と大学時代に出会ってから、改心するようになった。だから彼は執事に頭が上がらない。しかし執事は彼のそんな態度を謙虚と感じ、何かというと目を掛けていた。彼を自分の部下にして手足のごとく扱えるのも、そんな感情があったからだ。
 ジャクソンは自分から何かをするというよりも、他人から言われたことに対して忠実に仕事をすることに長けていた。そのことをいち早く理解した執事は、自分の部下として彼を重用できるよう、取り計らっていたのだ。
 ジャクソンもありがたいと思った。就職活動ではことごとく不採用の通知が来て、半分やけになりかかっていた頃だったので、執事の誘いはまさに、
「捨てる神あれば拾う神あり」
 であった。
 ジャクソンは、この国にやってきて、まず政府高官と接触した。特命を帯びているので、ジャクソンがジョイコット国の政府高官と接触できるようには、最初から手筈は整っていた。別に非公開の訪問でもないのだから、人脈さえ通せば接触することくらいは難しいことではない。
 ジョイコット国には、母国の公使館があった。
 実はジョイコット国と母国との間では、完全な国交は結ばれていなかった。それはかつての政治体制に問題があった。
 母国とジョイコット国は地理的な問題からか、しばしば戦争に巻き込まれていた。しかもそれぞれの政治体制の違いから、お互いに敵国同士というのがこの両国の宿命だった。
「別にジョイコット国のことを悪くは感じていないのだが」
 と母国の元首も嘆いていたが、それはジョイコット国の元首も同じであった。
 お互いに仲良くしたいという気持ちはありながら、なかなかそうは現実は許してくれない。仕方がないので、国交を樹立しない状態で、断絶もせず、公使館だけでも設置するという関係にあったのだ。
 逆に母国とアクアフリーズ国、ジョイコット国とアクアフリーズ国とは仲が良かった。そういう意味でアクアフリーズ国、つまりは先代の国王に、それぞれの国を仲介してもらうようにしていたのだ。
 アクアフリーズ国では、両国間に完全な国交が樹立されていないことを憂慮していた。この三カ国の地位としては、一番強大な国としてはアクアフリーズ国だった。その次に母国となり、その次がジョイコット国である。特にジョイコット国はその国の存続に、アクアフリーズ国の存在が不可欠で、クーデターにより王国が滅亡してしまったことは、ジョイコット国にとっても由々しき問題であった。
 チャールズやシュルツを受け入れ、チャーリア国の建国に貢献してくれたのもそのためであった。ジョイコット国としては、チャーリア国の繁栄もさることながら、アクアフリーズ国が元のチャールズによる統制のとれた国であってほしいというのが本音であった。
 チャーリア国は国が安定してきて、急進している国家ではあったが、まだまだ国家としては生まれたばかりという感じで、他の国の運命を握るだけの強大な力は有しているはずもなかったのだ。
 そんなジョイコット国に母国から派遣された二人の男、執事とジャクソンだが、二人に特命を下したのは、国家元首であるが、その後ろにはシュルツが控えていることを知る由もなかった。
 二人にシュルツが関係していることを話してもよかったのだが、執事はマリアを警護しているという任務も兼任している関係上、マリアのそばにいるマーガレットという自分の娘を巻き込むことになるのを恐れたのだ。
「娘には政治に関係のないところで幸せになってもらいたい」
 という親心だった。
 執事への特命は、順調に進んでいた。もちろん、特命の最終目的は、母国とジョイコット国の国交の樹立であった。だが、それまでには解決しなければいけない問題が山積していて、それを一つ一つ解決していくには、お互いの協力を必要が不可欠なのに、表向きには樹立されていない国交の中では難しいところが多かった。
 要するに公にできない仕事も多々あるということであった。
 その仕事で、秘密裡にできることはジャクソンが指揮を摂って行ってきた。だが、ジャクソンだけでは実現できない国家に関わることは、人脈を使って、政府要人を動かす必要があった。そのために今は人脈を増やすことを重視しなければいけない。人脈さえできてしまえば、後は行動させるだけで、実はっそれほど難しいことではない。むしろ人脈を築く方が難しく、ジャクソンも執事も、そのことに力を注いでいた。
 ジャクソンはその面持ちから女性を操ることにも長けていた。そのおかげで彼は秘密裏の行動の裏に、絶えず女性が絡んでいた。幾人も女がいて、彼女たちに協力させる。それも彼の特技の一つと言っていいだろう。
 こういうと女たらしの卑劣な男性のように聞こえるが、実際に国家間の間で秘密任務を持った人は、どこの国にも存在し、彼のように女性を使うエキスパートは少なくもない。中には血も涙もない、まるでロボットのような感情しか持っていない特務員もいるが、ジャクソンはそこまで卑劣ではない。むしろ彼女たちをその時々で本当に愛していたのだ。
 だが、愛しているという気持ちを抑えることができない彼は、女性を完全に安心させることもできた。これも彼の特技なのだろうが、思い入れが激しい女性に対して、彼も感情移入してしまうことがないわけではなかった。その都度乗りきってきたのは、ジャクソンの執事に対しての主従の気持ちが強かったからかも知れない。
「彼のことを考えると、女性に対して非情にもなれる」