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ジャスティスへのレクイエム(第4部)

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 特にシュルツは、密約を結ぶことに最初は抵抗があったが、この世で蔓延っていると思える、
「核兵器による戦争の抑止力」
 に対抗する抑止力が、ここでいう密約に値すると思っていた。
 それだけに厳しいものでなければいけない。核兵器による抑止力がもたらした弊害として残った休戦状態。それを解消するための密約は、
「遅かれ早かれ、そこかでこのような体制にしなければいけないんだ」
 というシュルツの意見を知っているのは、外務大臣だけだった。
 外務大臣がこれまでに国交を正常化させた国はアクアフリーズ国でちょうど五国目になる。それまでの国とも密約はすべて結んでいて、中には密約を結ぶことを強硬に拒否した国もあった。
 その時、休戦状態と核の抑止力の話をすることで、
「うーん、致し方ないか」
 と相手国の全権大使をうならせて、最終的に国交を正常化させたのだ。
「ところで、休戦状態を終わらせることってできるんですか?」
 と、アクアフリーズ国の全権大使はそう言った。
「具体的には、まだそこまで詳しくは戦略を練っていません。元々、どうして休戦状態になったのかということを考える必要があるかも知れませんね」
「その通りなんですよ。私も今言われて、自分たちが休戦状態であるということに気付かされたくらいですので、政府の他の連中や国民には、休戦という意識はないでしょうね」
「そうなんです。私はどうして休戦状態になったのか、その時のことをいろいろ調べてみました。我が国に先制攻撃を掛けてきたと言っても、別に侵略する意図があったわけでもなく、アレキサンダー国の口車に乗っただけでやむなくの行動だったと思っています。だからお互いに休戦というと、少々の条約でも飲むのではないかと思っていました」
「実際にどちらかの国がそれを飲まなかった?」
「いえ、そうじゃなくて、最終的にはどちらの国も休戦協定に調印することを拒否したんですよ」
 というと、全権大使はビックリして、一瞬後ずさりしたようだった。
「どういうことなんですか? どちらかが休戦を言い出したから休戦協定が具体化されたんですよね? それを両方が拒否するというのは、普通の外交だったら、考えられないことですよ」
「私も不思議に思って、その時の戦争状態を調べてみたんですが、具体的な事例は出てきませんでした。戦闘状態というのは流動的なので、少しでも戦果があれば、自国に有利な条件を相手に突き付けて、そのせいで和平が遠のくということもあるんでしょうが、残っている資料からは、そんな状態は垣間見ることはできませんでした」
「結構、調査されたんですか?」
「ええ、その調査から、アクアフリーズ国のバックにアレキサンダー国がいたことは明白になりました。なんとなくですが分かってはいたんですが、資料を確認するまでは、半信半疑でしたからね」
「でも、よく調査できましたね。チャーリア国だけの情報では、ここまで調査できなかったでしょう?」
「もちろん、調査は我が国だけのことでしたが、その時の休戦協定には、実は第三国が関与していたんです。そこで資料を見せてもらいました」
 世界大戦前までは、休戦協定を行う場合、第三国が間に入って、調停委員の役目をしていた。しかし、大戦後に起こった戦争に関しては、必ずしも第三国の調停を必要としないという慣習が一般的になった。
 その理由は、独立戦争のような小競り合いが頻発していた時期があって、第三国を立てるとなると、一時期に複数の紛争や戦争を抱えている時代だったので、第三国が当事国に対して急に中立の立場ではなくなってしまうことが往々にしてあった。そのため、第三国としての存在意義が薄れてしまった。
 WPCが誕生した背景には、こうした休戦条約などに対しての第三国的な立場を示すための役割もあったのだ。
 今までに結ばれた協定で、第三国としてのWPCの存在は、八割に達していた。今回のような休戦協定の調査に関しては、WPCに問い合わせたり、直接調査に赴いたりするのが最初のとっかかりになるだろう。
 外務大臣もまずはWPCに調査に向かった。
 WPCでの調査は、依頼しても自分で調査しても構わないというのが、加盟国であれば権利として認められていた。
 ただ、依頼の場合はその時の状況によって後回しにされる可能性もあるので、自分から調査する国も結構あったりする。
 WPCの調査が公開されているとはいえ、まったく関係のない国の情報を得ることはできないようになっていた。それくらいのセキュリティがなければ、情報開示などできるはずもなかった。
 そういう意味では、WPCの技術力は、世界最高レベルと言ってもいいだろう。
 だが、今回の調査はかなり難航した。最終的にはWPCにジョイコット国とチャーリア国との休戦協定に対しての情報が残っていなかったのだから、調査が難航したというのも仕方のないことだろう。
「どういうことなんだ?」
 外務大臣は頭を抱えてしまった。
 空戦協定のような大事なことをWPCや第三国からの調停がなければ決められるはずもなかった。
 調停委員があったからこそ、お互いに拒否をしても、暫定的な休戦条約が慣習として残ったのだ。
 WPCという組織に、当時のアクアフリーズ国が疑問を抱いていたということは、外務大臣も聞いたことがあった。
「調停をWPCに委ねるのであれば、我々はその要求に応じることはできない」
 と、言っている光景が目に浮かんでくるようだ。
「外務大臣、あなたはWPCで調査されたんでしょう?」
「ええ、しました。でも、何らWPCにアクアフリーズ国とチャーリア国の間で話し合われた休戦についての記録が何も残っていなかったんですよ」
「ということは、故意に記録を残さなかったのか、それとも別の第三国が介在していることで、WPCには無関係として記録されなかったのかのどちらかなんでしょうね」
「私は、別の第三国が存在していると思います」
「あなたはそれがどこだとお考えですか?」
 と全権大使の問いに、
「私は、それはジョイコット国だったのではないかと考えます。そう考える方が一番しっくりくるように思うんですよ」
 と外務大臣は答えた。
「なるほど、ジョイコット国ならありえるかも知れませんね」
「ええ、ジョイコット国なら、お互いの国に関わりはあるが、利害関係という意味で、ジョイコット国から見て、チャーリア国もアクアフリーズ国も、均等な距離に見えるからですね」
「その通りです。でも私が考えるに、その時、それぞれの国は自分たちの方がジョイコット国に近い存在だと思っていたのではないかと考えています。だから、ジョイコット国がそれぞれの国との交渉の際に、相手国を少しでも擁護する発言をすると、あからさまに嫌な顔をしたのではないかと感じています」
「まるで男女間の三角関係における嫉妬のようなものですかね?」
「そうです。それが国家という疑似人格なので、余計に分かりにくいところがあるのでしょうが、当時のジョイコット国の国家元首と、アクアフリーズ国の国家元首を比べてみると、相手が第三国でありながら、いつの間にか、自分たちの利益のことばかり考えてしまっているように思えたんですよ」
「チャーリア国はどうなんです?」