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ジャスティスへのレクイエム(第4部)

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 だから、ジョイコット国が侵略を受ければ、全力でチャーリア国も助けなければならない。それが表に見えた密約であり、チャールズが一番望んでいた同盟状態の確約だったのだ。
 ちょうどその頃、チャーリア国は周辺の国に対して開放的になっていた。あの宿敵であるアレキサンダー国に対しても、国交を結ぼうとして大使を派遣したりしていた。実際にシュルツが出向いて、政府高官と話をする機会もあったのだが、話は物別れになってしまい、友好関係を築くことはできなかった。
「お互いの国家の事情もあるでしょうが、国交を結んでおけば、お互いの利益に繋がることもあるはずです。特に軍事面での協力は不可欠だと私は考えます」
 と、シュルツがいうと、アレキサンダー国の高官はフット笑ったかと思うと、
「それはどうでしょう? 交わることのない平行線に終わってしまうような気がしますが……」
 と言った。
 それはまるで相手を蔑む目であり、あからさまな態度にシュルツは、アレキサンダー国とは、本当に交わることはないと感じたのだ。
 シュルツも最初から、国交が樹立できるなどと端から考えているわけではない。お互いの国民を納得させるためのお芝居に近いという認識がそれぞれにあった。
 立憲君主の国であるアレキサンダー国は、権力の一極集中を国民に納得させるために、憲法にのっとった権力の行使によってさらなる権力保持の持続を保たなければいけなかった。
 その時、
――アレキサンダー国は、我が国への侵攻を本格的に決めたかな?
 と感じた。
 相手の政府高官の顔を見ていると、一瞬鏡を見ているような気がしてゾッとした。
――私も相手に同じことを感じさせる顔をしているのかも知れないな――
 それは、自分の本意がどこにあるのかどうかは別にして、相手が勝手に感じることを自分で理解できたということである、どちらにしても、このままただで済むことはないだろう。
 シュルツは最初、アレキサンダー国との国交を結ぼうとしたことを後悔した。元々アレキサンダー国と国交を結ぶことに賛成したのは自分だけだった。大統領であるチャールズやその他の議員は、反対に回っていた。
 しかし、
「立憲君主の国であるアレキサンダー国と国交を結び、彼らの考え方を学んでおくことは、いずれアクアフリーズ国と国交を結ぶ時のための教訓になるのではないか?」
 というシュルツの意見に、最初に賛成したのがチャールズだったので、他の議員も賛成せざるおえなくなってしまったのだ。
 シュルツはアレキサンダー国との国交を、あくまでも一つのステップだとしてしか思っていなかった。確かに一度攻め込まれそうになった相手だが、お互いに国交を結ぶことで見えてこなかったことが見えてくることは、悪いことではないと思ったからだ。
 ちゃーえうずもその考えに賛同したのだろう。お互いに主義主張が決定的に違っているわけでもなく、国土的な野心もそれほど強いものではない。それよりも味方につけておく方が、お互いのメリットが感じられ、デメリットがあっても、それを凌駕できるほどの関係を築けると考えたからだ。
「では、実際の交渉は、シュルツ長官にお願いできますでしょうか?」
 というのは、外務大臣の意見だった。
「私には、アレキサンダー国とまともに交渉できる自信がありません。まさかシュルツ長官が、アレキサンダー国との国交を言い出すとは思ってもみませんでしたよ」
 と外務大臣はさらに続けた。
 外務大臣は、元々アクアフリーズ国からの亡命者ではない。チャーリア国建国のためにシュルツが勧誘してきた大臣だった。
 彼は、子供の頃、アレキサンダー国の前身であるグレートバリア国に住んでいたことがあった。
 父親が外交官で、グレートバリア国に駐在していたのだ。一緒にいたのは子供の頃だけで、大臣が高校入学とともに、母親と一緒に母国に戻っていた。
 母国で彼も政治家としての経験を積み重ね、いよいよ外務次官にまで上り詰めた時には、史上最年少での外務次官として注目を浴び、父親もさぞや鼻が高いだろうと思われていたが、その父親もいよいよその翌年に定年を迎えるというその時、軍事クーデターが起こったのだ。
 その時の混乱で父親は行方不明、今もその消息は分かっていない。あれから十数年という月日が経っているので、今までまったくの消息が不明であるということは、十中八九、この世にはいないだろうと想わせた。
 その思いが彼をアレキサンダー国への恨みに変えた。シュルツから新生チャーリア国の外務大臣への大抜擢の話を貰った時、二つ返事で引き受けたのは、
――やっと自分の力が本当に認められた――
 と感じたからだ。
 彼はシュルツのウワサは聞いていた。
――いずれはシュルツ長官の下で働くことができれば、どんなに幸せだろう――
 と思ったほどだった。
 新生国家の外務大臣に大抜擢されたことよりも、誘ってくれたのがシュルツだったことが即決の一番の原因だった。
――だが、まさか尊敬するシュルツ長官が、あのにっくきアレキサンダー国と国交を結ぼうなどと言い出すなんて――
 と、目の前が真っ暗になった気がした。
 だから、この件に関しては、あからさまに投げやりな態度になった。
――更迭されても、それならそれでいいんだ――
 とまで感じたが、シュルツには彼を更迭する気などまったくなかった。
「よし分かった。アレキサンダー国のことは私に任せて、君はアクアフリーズ国の方への根回しをお願いしたい」
 と言い出した。
 アクアフリーズ国とは、この政府自体がアクアフリーズの亡命政権である。まともに相手できる相手ではないことは分かりきっていることだった。
――アレキサンダー国との交渉よりも、こっちの方が難しい――
 と感じたが、相手だけを見ると、アレキサンダー国よりもくみしやすいと考えたのは外務大臣だけだろうか。
「分かりました。少し時間はかかるかも知れませんが、アクアフリーズ国との交渉は私がやります」
 この時期、外務大臣を彼がやっているこの時期に、宿敵である二国を相手に国交を結びたいと考えたのは、ジョイコット国との間で密約が結ばれたからであった。
 逆を言えば、シュルツはアクアフリーズ国、アレキサンダー国との間に国交を結びたいという思いから、ジョイコット国と密約を結んでおく必要があったのだ。
 そのことを知っている人は誰もいない、チャールズも密約の事実は最初から知っていたが、その本意がどこにあるのかまでは分かりかねていた。
 密約と言うだけに内容まで知っているのは、シュルツとジョイコット国の直接交渉した相手だけだった。そういう意味ではジョイコット国内で、密約の事実を知っている人はいないはずだ。チャーリア国だけどうして漏れたのか、不思議で仕方がなかった。
 チャーリア国は外国からの大使館がいない。国交が樹立されていても、相手国に対しての情報操作が行われていたり、極度に秘密主義の国であった。そういう意味ではチャーリア国は開かれた国に見えるが、実際には謎多き国として、国家研究員には総じて、そう思われていた。