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ジャスティスへのレクイエム(第4部)

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 実際に考えはあった。しかし、想像と現実ではまったく違う。刻々と変わっていく状況に、想像していたことなど、ついてこれるはずもなかった。気持ちだけは意識の中にあったとしても、最悪を想像するなど、そう簡単にできることではなかった。
 そういう意味では、マーガレットはメルシーほど訓練も受けていないし、覚悟も中途半端であった。今まで自分以上に覚悟や冷静に周りを見ることのできる人を見たことがなかったので、メルシーの出現はマーガレットにとっては衝撃だった。
 父親のシュルツは、覚悟も最悪の場合を考えることにも長けていた。そんなシュルツの娘だから、余計に自分もしっかりしないといけないと思う。
 しかし、実際にはそうもいかない。なぜなら、シュルツは自分の父親である。父親というと、どうしても娘に甘くなるのは仕方のないことだ。マーガレットが最後の壁を超えることができなかったのも、親子というどうしようもない関係が、マーガレットに甘さを残したのかも知れない。そのため、マーガレットは絶えず寂しさという壁を超えることができないでいたのだ。
 マーガレットは、ジョイコット国にやってきて、頼れる人はジャクソンだけだった。肝心の執事はマリアにかかりっきりで、自分の身は自分で守らなければいけない状況に陥りそうになったマーガレットだ。
 マーガレットは、ジョイコット国に来るまで、ジャクソンの存在は知っていたが、実際に話をしたこともなければ、どんな人なのかも知らなかった。要するに興味がなかったのである。
 だが、実際にそんなことも言っていられない状況になってきた。マーガレットも今はまだ自分がシュルツの娘であるということは幸いにも知っている人はごくわずかだったが、何か有事が起こったり、クーデターなどが起こりそうな不穏な空気になった時は、マーガレットという存在は格好の標的だった。
 マリアは元妃だということではあったが、国王が退位して亡命した瞬間から、その存在価値はさほどのものではなくなった。却って参謀であるシュルツの価値が上がってきたことで、戦略的なキーポイントになるのはマーガレットである。
 ジャクソンがマーガレットにメルシーを引き合わせた時、ジャクソンはどこか嫌な予感があった。会わせるまでは何も感じなかったし、引き会わせた時も、あまり何も感じなかった。しかし、二人きりにして、自分だけがその場所に取り残されたその時、嫌な予感が巡ってきたのだった。
 何かの根拠があったわけではない。二人を引き会わせて、自分が取り残されたという主観的な気分になった時、急に寒気のようなものが湧いてきたのだ。
 会った二人が自分たちだけの世界に入ることは往々にしてあることで、引き会わせた人が一人取り残されるのは別に珍しいことではない。ジャクソンも今までにも何度か経験をしたことだった。ただ、それは仕事という意味でのことであり、プライベートに関してのことは一度もなかった。
――そういえば、俺にプライベートなんて思い、ずっとなかった気がするな――
 子供の頃から国に尽くす人間になりたいという思いを持っていたジャクソンは、子供の頃から政治家になりたいと思っていた。途中で軍人になりたいと感じたこともあったが、軍人と政治家というのは仲が悪く、実際に国のためになっているとすれば、軍人というよりも政治家だという思いを強く持っていたので、軍人への道は自分の中で閉ざしてしまった。
 もう少し母国が軍国主義の国であれば、軍人に憧れたかも知れない。しかし、歴史が好きだったジャクソンは、母国の歴史を勉強しているうちに、
「軍人ではダメだ」
 と思うようになった。
 母国の歴史はクーデターが幾度か繰り返された歴史があった。その都度失敗している。軍隊によって鎮圧されたのだが、その軍隊を後ろで操っているのが政治家だった。
 母国の軍は、政治家によって動かされていた。
 他国から侵略を受けたり、国家非常事態ともなれば、国王に軍隊を掌握する権利が与えられるが、平時では国王が軍を動かすことはできなかった。
 だからといって、政治家がいつも正しいとは限らない。
 だからこそクーデターが頻繁に起こっているのだ。
 歴史を勉強すればするほど、その時代ごとの政治家が程度が低いことを思い知らされる。そのたびに政党が頻繁に変わっていて、国の体制が変わってしまうこともあった。
 母国はずっと王制を敷いてきたが、国王はある意味ほとんど名ばかりであり、象徴的な色が深かった。それでも時と場合によって、その権力は絶大になり、他の国の絶対王制の国王の権利よりもさらに広い権利が与えられたりもする。
 だが、そんな状態に実際になったことは、ほとんどなかった。クーデターが頻繁に起こっても、国王に軍を掌握する権利は、クーデターでは起こらない。最終的な決定権は国王になるのだが、そこまでに上がってきた政治家で決めた結論を、国王は承認するだけだった。
 母国には憲法というのが存在しない。王家の法律がある意味憲法に近かった。その法律は王家を取り締まる法律であり、国民はこの法律で裁かれることはない。逆に国王は私法で裁かれることはないが、王家憲章で裁かれる。私法に比べて王家憲章の方が圧倒的に厳しいものである。そういう意味で王家は、
「かごの中の鳥」
 同然と言ってもいいだろう。
 母国は、他の王国とは明らかに違った特徴的な国家であった。マリアもそんな王家で育ったので、少し変わっていたのだが、チャールズはそんなマリアを甘んじて受け入れていた。
「マーガレットでなければマリアの相手は務まらない」
 とまで言われたほどで、二人の関係は他の人が立ち入ることのできないほどのものとなっていた。
 マーガレットは、亡命してからマリアと離れ離れになってしまった時期があった。
「何とか早く、マリアを探さなければ」
 といろいろな手を尽くして捜索したが、混乱の中ではぐれてしまったのだから、そう簡単に見つかるわけもなく、亡命した他の人に紛れて、しばらくはおとなしくしているしかなかった。
 メルシーは、その頃、マリアと接触していた。マーガレットもジャクソンもマリアがメルシーと面識があったなど、知る由もなかった。命からがら亡命してきて、頼れるのはメルシーだけだったマリアとしては、完全に命の恩人であった。
 そんなメルシーのいうことは、できるだけ聞いてあげるしかないマリアだったが、メルシーもマリアに対してそんなに無理なことを言わなかった。
 メルシーのマリアに対しての気の遣い方は半端ではなく、マリアが不安にならないように絶えず工夫していた。
 ただ、それもマリアが自分に対して余計なことを考えないようにさせるための計算であり、こんなご時世だからこそ、余計にマリアはメルシーのことを信頼していた。
 マーガレットがマリアと再会した時、メルシーはマリアのそばにはいなかった。
「もうあなたは大丈夫なので、私がそばにいなくてもいいわね」
 と、マリアに別れを告げようとしたメルシーだったが、
「えっ? どうしたの? まるで私の前から消えるような言い方じゃない。私にはまだあなたが必要なのよ。どうしたっていうの?」