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短編集59(過去作品)

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 なつみとの別れが中途半端だったからだとしか思えない。
 だが、身体だけは正直で女性を女性の身体を求めているのは間違いない。どうしても我慢できなくなると、風俗に通うこともあったが、それもたまにである。店に入ると頻繁に来ているように感じるのは、それだけ店を出てからの虚しさが、しばらく続くからであろう。分かっていても出かけてしまうのは、それだけ寂しいからだ。
「女の子と二人きりになれる」
 このシチュエーションが今の和人にとっては最高なのだ。それが若さを失わない秘訣でもあった。
 しかし、ある日を境に虚しさが、寂しさを上回ってしまった。
 相変わらず出会いもない。それでも孤独感を感じながらでも、寂しいという感覚が麻痺してしまった。
――俺も年を取ったのかな――
 そう思った瞬間だった。開けてはいけない箱を開けてしまったような気がした。おそるおそる鏡を見てみる。そこにいたのは自分ではなかった。
 いや、自分である。これは一度以前に夢で見た将来の自分である。一気に二十歳くらい年を取ってしまった自分を鏡の中に見てしまったのだ。夢から覚めた時に感じたこと、
――夢でよかった――
 今度は覚めることはないかも知れない。それは、女性への興味を失ってしまった自分への警鐘であるに違いなかった。
――飽食の時間を過ぎれば、時間が経つのが早いのだろうか――
 自分の内面にある精神状態は、自分の中でだけしか作用しないようだ。
 その時に想像しようとしたイメージ、それはなつみだったのだが、どうしてもどんな女性だったか、思い出すことはできなかった。なぜなら、同じく二十年を経過したなつみのイメージしか浮かんでこなかったからである……。

                (  完  )


作品名:短編集59(過去作品) 作家名:森本晃次