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短編集59(過去作品)

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 二十歳代前半くらいまでは、皆から老けて見られていた。自分で鏡を見てもそう感じてしまうのは、他人から言われるだけではなく、自覚していたからに違いない。それが三十歳近くになってくると、年相応に感じられてくるようになった。
 そうなってからであろうか、女性と知り合うきっかけも出てきた。
――女性を気にしすぎるからかも知れない――
 露骨な視線を女性に浴びせていたのかも知れない。学生時代に持っていた女性へのイメージと違ったものを社会人になって持つようになっていた。学生時代に感じていた女性へのイメージは、同い年の女性と知り合って、デートを重ね、そこからお互いに仲良くなっていく普通の恋愛だった。だが、社会人になってくると少し違ってきていた。
 気になる女性のほとんどは年上だった。同じ新入社員として入ってきた女の子たちのほとんどは、高校卒業して入ってきた女の子たちで、まだ未成年だった。数年勤務している女性もいるが、彼女たちもまだ和人よりも年下である。
 新入社員の女の子たちは完全に子供にしか見えなかった。自分が高校を卒業した時を思い出すと、相当昔に思えるからだ。あの頃から比べればかなり大人になったように感じる。年齢的なものだけではなく精神的にもである。
 そんな彼女たちも一年、二年と会社にいると、だいぶ大人に変わってくるようである。女性の成長の早さは、大学時代にも感じていた。同じ学年の女の子たちの中で相当な大人に感じられる女性が何人いたことだろう。
――彼女たちはまず間違いなく男を知っている――
 そんな目で見てしまう自分に嫌悪を感じてしまったことさえあったくらいだ。
 社会人二年目の事務員ですら、大学四年間を経ている和人から見ても大人に見えている。それだけ社会で揉まれることが大変なことだと意識しているからで、意識しているから大人に見えるのだ。
――どうかすると年上に見えてくる――
 そんな彼女たちから教えてもらうことも少なくない。特に事務の流れに関しては、彼女たちを無視しては語れないからだ。
 教えてもらいながら、
――なんだろう? このドキドキは――
 と感じていた。ほのかな香りが鼻を突き、声を聞いているだけで、睡魔に襲われてくる。心地よい声というのはあるもので、優しく女性から囁いてもらっているというシチュエーションに酔ってしまっていたのも事実だった。
 生まれて初めて女性を感じた瞬間だったかも知れない。学生時代にもかわいいと思った女性はたくさんいたが、ずっと遠くから見ているだけで、実際に感じたことのない香りだったからだ。
 香りが直接恋に結びついたといっても過言でない。香りと声、嗅覚と聴覚が身体の全神経を刺激したのかも知れない。
 だが、彼女とはあくまでも会社では先輩と新入社員の関係だった。彼女がどう思っているかなど聞けるはずもなく、せっかく一生懸命に教えてくれているのを中途半端な気持ちで教わってしまうわけにはいかない。結局困るのは自分であって、教えてくれている彼女に対しての礼儀に反してしまう。自分が困るよりも、礼儀に反することに抵抗感が強かった。
 そこが和人のいいところでもあった。
 他人に気を遣うことをあまりしていないと自分では思っていたが、それはあからさまな気の遣い方が嫌いなだけで、さりげなく遣う気は紳士の証のように思っている。
 あからさまな気の遣い方は見ていて不愉快である。特にいわゆる「おばさん」たちの露骨な気の遣い方はまわりへの迷惑を一切考えていない。
 例えばレストランなどでの食事の時、「おばさん」のくせに結構洒落たレストランでのランチを趣味にしている連中がいたりするが、食事が終わりいざレジでお金を払う時になって、
「ここは私が」
「いえいえ奥さん、ここは私が」
 レジでお金を払う時になって途端に気を遣い始めるシーンをよく見かける。ファミリーレストランなどではレシートを分けていればいいのだが、個人経営などの洒落たレストランでは、なかなかそうも行かない。ランチタイムなどで客の回転が速い時に、レジでの一悶着は、実に他の客に迷惑である。
「早くしろよ。まわりの客が迷惑じゃないか」
 そんな言葉が喉の奥に引っかかっているサラリーマンもいることだろう。もしそこに和人がいれば、ハッキリと口に出して文句を言うかも知れない。言わなかったとしても、露骨に嫌な顔くらいはしているに違いない。
 自分たちさえよければいいんだ。そして自分たちだけの小さな世界しか見えていない人が、洒落たレストランに来るなど身の程知らずだと思えてくるに違いなかった。自分たちだけのことしか考えられない連中を見ているのが嫌いなこともあってか、今から思えば大学時代に特定のグループの輪の中に入っているということがなかった理由が分かったような気がしていた。
 一つのグループに深く入るのも悪くはないが、浅く広くいろいろなグループに友達を求めていた。大学時代は四年間しかない。四年という時間が最初は長いと思っていたが、友達関係に関してだけを考えると、
――実は短いのではないだろうか――
 と感じるようになっていた。自分が老けて見えることもその理由の中にあったのかも知れない。鏡を見るたびに時間があっという間に過ぎてしまう錯覚に陥ってしまうことがあったからだ。
 社会人になって和人に気を遣ってくれた女の子には彼氏がいた。
――そうだよな、素敵な女性だものな。彼氏くらいいて当然だ――
 と納得しているつもりだったが、どこか釈然としないものがあった。それが一抹の寂しさを呼び、孤独感を一層深めてしまうことになることも分かっていたが、他の女性に目を向ける気にはなれなかった。
 素敵な女性は他にもいた。実際に和人を気にしてくれている女性もいたが、どうしても気持ちが靡かない。
――どうしてなんだろう――
 学生時代までは、相手を選んだりしなかった。
 もし、自分のことを好きになってくれる女性がいれば、よほど虫が好かない相手でもなければ付き合っていたに違いない。
 和人は女の子の好みを顔で判断する方ではないと思っていた。
「俺はどちらかというと、まず相手の表情で性格を判断して、それで好きになる方だからね」
 と友達に話すと、
「それだって顔で判断しているのと同じじゃないのか?」
 と言われると、
「いやいや、時折見せる表情にドキッとするような顔が見えれば、それが恋だと思っているのさ」
 と言って反撃すると、
「そのわりには彼女ができないじゃないか。なかなかドキッとする表情の女性にめぐり合えないということかな?」
「そうかも知れないね」
 とボカして曖昧に答えてしまったが、半分は当たっている。
 確かにドキッとする表情の女性にはなかなか出会えないが、出会った時にはすぐにその女性には彼氏がいることが分かってしまうのだった。後になって分かってしまってからの方がショックは大きいので、それはそれでいいのだが、
――巡り会わせが悪いのかな? 本当に好きになれる女性ってなかなか現れることはないのかも知れないな――
 と弱気になってしまったりもする。
作品名:短編集59(過去作品) 作家名:森本晃次