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ジャスティスへのレクイエム(第3部)

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「これは我が国に対しての挑戦のようなものだよ。これを容認していては、我々が国家としての責務を果たせなくなる」
 彼らの国にも地下資源が豊富にあったことで、WPCからの離脱で大きな混乱はなかった。彼らは今度は難民を救済する方に動いたのだ。
 難民を受け入れるところまではできなかったが、資金援助は豊富にできた。
「我々が裏から難民を援助しますので、そちらの国としてはWPCから難民に対しての追及はないと思いますよ」
 というのが、彼らの言い分だった。
 もちろん、見返りを求めないわけではない。WPC脱退の余波は、まったくなかったわけではない。脱退したことで、加盟国との貿易や条約が見直される危険性があったのだ。それを難民問題を引き受けることで、彼らと今まで通りに貿易ができることの確約を取り付けていた。
 そのおかげで難民への援助金もさほど苦痛ではなかった。難民はそのおかげで難民キャンプを営みながら、次第に裕福になっていき、武器弾薬を得ることもできて、勢力としては大きくなってきた。
 そしてついに彼らは報復攻撃に出た。
 最初に先制攻撃を受けた国に、今度は自分たちが侵攻した。
 彼らには資金援助をしてくれた国が、武器の供与と軍事顧問を引き受け、立派な軍隊を形成できるところまで来ていたのだ。
 実は資金援助をしていた国と、難民に先制攻撃を加えた国との間には、昔からの確執があり、最近でこそ戦争状態になったことはなかったので、誰もがこの二国の対立を忘れていたが、お互いの国では、
「因縁の相手」
 として意識気をしていたのだった。
「我々は、この機に難民を先導させて、一気に相手をぶっ潰す」
 と、穏やかではない話をしていた。
 先制攻撃は見事に成功。彼らは相手国深くに侵入し、聖地を奪うことができた。
 その部分を軍事占領することで、彼らはそこを自分たちの領土として、建国宣言を行った。
 さすがにWPCが許すわけもなく。緊急国家間会議が開かれたが、意見は真っ二つに割れた。
「元々、WPCの不手際から始まった話ではないか。彼らの建国を認めなければ、事は解決しない」
 という意見もあれば、
「いや、心情的にはそうなのかも知れないが、もしここでこの事実を承認してしまうと、他の難民も同じように蜂起し、世界中で難民が自国を建国するという野心に燃えて、他の国を侵略しないとも限らない」
 という意見があった。
 それを聞いていた議長は、
「どちらの意見も分かった。確かにその通りだと思う。しかし、それを踏まえたうえでも、この事態を憂慮するのです」
「どうしてですか?」
「難民たちがこぞって自分たちの国を建国しようとして他の国を侵略すれば、そこにはまた新たな難民が生まれることになる。そうなると、結果としては堂々巡りを繰り返すだけになるとは思いませんか?」
 と言われてしまっては、皆が、
「うーん」
 と言って黙り込むしかなかった。
 この総会は、ここでの、
「堂々巡り」
 というセリフにあるように、どんなに議論しても結論など生まれるはずがないことを示していた。
 それでも会議をしなければいけないという矛盾にジレンマを感じながら、その時のWPCの混沌とした状態を示しているのだった。
「難民というのは、本当に厄介です。戦争がなくならない限り、難民は発生する。しかし、発生した難民が自分たちの生活を保つには、また戦争を起こすしかない。これは完全に負の連鎖というべきではないでしょうか?」
 難民の問題はエスカレートしてくる。そして次の議題として挙がったこととしては、
「難民が発生した周辺国の対応」
 という問題であった。
「この問題は実にデリケートな問題です。人道に照らして話すのも限界があります。もし自国にドッと難民が押し寄せてきた場合は、それなりの強硬な対処をしないと、自国の滅亡にも繋がってくる問題ですからね」
 と議長がいうと、
「それはもちろんです。私たちは犠牲を払ってまで難民を擁護しなければいけない義務はないはずです。」
 と誰かがいうと、
「とは言っても、明日は我が身です。ぞんざいな対応をしてしまうと、次に自分たちが難民を出してしまうと、どこも対応してくれなくなりますよ」
「領土的な対応はできなくても、金銭面や物資での対応はできるんじゃないですか?」
「できる限りは行いたいと思いますが、それも限界があります。しかし、実際に国境近くまで難民が押し寄せてきた場合、相手が強硬に国境突破などしようものなら、こちらも武力に訴えなければいけなくなるということです」
 と最初に言った議員が発言した。
「それは穏やかではない発言ですね」
「それは、実際に難民対応を行ったことのない人が言えることです。我が国は地理的な問題もあってか、いつも難民問題とは切っても切り離せない関係にある。かつては難民を受け入れる体制であったこともあったし、逆に難民を締め出す体制であったこともあった。それぞれに極端ではありましたが、その時々の情勢や自国の事情があったんです。もちろん、かつての教訓もありましたが、それだけその時々で難民問題に直面すると対応も変わってくるということになります」
「ということは、ここでの論議は無駄だということでしょうか?」
 と、今の話を聞いていて、カチンときたのか、少し挑発的な言い方をする議員がいた。
「そういうことではありません。難民に対しては中途半端な対応をするべきではないと言っているんですよ。確かに金銭的なものや物資を与えれば彼らにとってはいいことなんでしょうが、何の解決にもなっていないと思うんです。提供に対して反対はありませんが、ここでの会議はそこだけにとどまっていい問題なんでしょうか?」
「性急に答えを導き出す必要はないと思っています。皆さんには皆さんの自国の事情もおありでしょうし、国際社会の事情もあります。だから、ここで皆さんの意見を伺いたいという会議なんですが、それが違っているということでしょうか?」
「そう言っていません。ただ、先ほどの話にもありましたように、この問題は堂々巡りが大前提に潜んでいます。私が最初にデリケートな問題と言ったのもそういうことです。まずは人道的な問題と、もっと実質的な問題とに分けて考えなければいけないのではないかと思っています」
「じゃあ、実際の法案を検討しているというよりも、臨時法案とでもいうべきなんでしょうか?」
「それも少し違いない。最終的には常時法案でなければいけないと思うのですが、がんじがらめにしてしますと収拾がつかなくなる気がするんですよ」
「確かにそうですね、すべての場合を考慮して決められるのが法律というものですからね。国際的な問題で、しかも難民というデリケートな問題は、難民を出した国、そしてそれを受け入れる国と、それぞれにリスクを負うことになります。そういう意味では矛盾している法律と言えると思います。だから、収拾がつかなくなるということをおっしゃっているんでしょうね」
「お分かりいただいて恐縮です。今も全世界規模でいけば、難民は増え続けていると思います。まずはここの事情かあ洗い出してみるともいいんじゃないでしょうか?」