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ジャスティスへのレクイエム(第3部)

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 難民問題は、今世界でも深刻化している。この国もそのことは知っていたが、今までに難民を受け入れることもなければ、難民ができてしまう環境でもなかった。それが自分たちが招いた種とはいえ、ここまで難民が大量に発生するとは、どうしようもない状況に追い込まれてしまったことに対して、何ら対策はなかったのだ。
「こんなに難民を受け入れてしまってどうするんだ?」
 国家元首が政府を詰った。
「申し訳ございません。まさかこんなことになろうとは思ってもいませんでした」
 というと、経済担当大臣が、
「このままでは我が国の経済は疲弊してしまいます。すでに株価は流動的で、落ち着いておりません。我々としてもどうしていいのか分かりません。株価も最低にいるのであれば対策もあるんでしょうが、いかんせん流動的ですので、どこの点を捉えればいいのか分からないため、どうすることもできません」
 と訴えた。
「それは職の面においても同じです。難民が就職に絡んできてから、企業は彼らの安い人件費に目がくらんで、彼らばかりを雇っていました。その結果、自国民が解雇になったりして雇用の面でも深刻な問題です。しかも、安い賃金で雇われた連中は、それなりの仕事しかできません。いや、それ以下と言ってもいい。正直使い物になりません」
 と、労働大臣の意見だ。
「そんなものは雇った企業に責任があるんじゃないか?」
 と政府高官が無責任に言うと、さすがにムッときたのか、
「そんなことは分かっています、分かっていてどうしようもない状態になったんだから、ここで議題にしているんじゃないですか」
 と怒りを抑えようとしてはいるが、抑えることができずに不満をぶちまけていた。
「難民の低俗性はひどいものです。よくあんな民族を抱えていたものだと感心するくらいです」
 と、呆れたように他の政府高官が言った。
「彼らは未開地民族のまま時間だけが過ぎてしまったんじゃないでしょうか? 奴隷制度は撤廃されましたが、火種は燻っていたんでしょう。あの国もそのつもりでずっと彼らを見てきたから、うまくやっていけたんじゃないでしょうか?」
 というと、
「本当は大量虐殺してやりたいくらいですが、そういうわけにもいきませんからね」
 と問題発言をした政府高官に対し、誰も異議を唱える人はいなかった。
「そんな言い方、差別用語ですよ」
 というのが正当なのだろうが、この状況を正当な表現で話をする時期が過ぎていたことを示していた。
「本当はこのまま奴隷として搾取したいくらいです」
 というと、
「それもいいかも知れませんね。どうせ彼らは今まで奴隷同然の扱いを受けていたんでしょうね。平和な世界ではあったが、彼らには自由はなかった。いきなり戦争に巻き込まれて戸惑ってはいるが、搾取や迫害されることには慣れっこになっているでしょうからね」
「じゃあ、法制度の充実が必要になってくるかも知れませんね」
 と誰かがいうと、
「そうですね、難民特別法が必要かも知れません。まずは国家非常体制宣言を行って、臨時体制を敷くことによって、まずは臨時法制を通して、次第に国民の意見を集約し、国内法として確立させることですね」
「その通りです。最初から厳しいものにしなければいけませんから、国家非常体制を敷くことは不可欠ですね。難民に対しての我が国の体制を確立するためにはそれが一番いいことです」
 その場の閣議は、全会一致で臨時体制への移行に賛同した。
 程なく国の体制は非常事態宣言が敷かれ、その対象は難民に向けられた。
 彼らは自分たちがこれからも迫害される運命にあることを知らないまま、今はやっと手に入れた自由を堪能しているようだったが、それが母国民の怒りを買い、国家非常事態宣言に拍車をかけた。
 こうなってしまっては、中途半端な法律を作ることはできない。難民に対しては奴隷と同等の権利を与え、義務は曖昧にしていた。これがこの国の体制であり、実はこれはまだ世界的な難民に対してのプロローグでしかなかった。
 この問題が数年後にチャーリア国、アレキサンダー国、アクアフリーズ国の三カ国を巻き込んだ問題に発展してくるのだった。
 まずはそのためのモデルコースとしてできあがった法律は、今では国内法として生きている。
 最初はWPCに提訴しようという動きもあったが、奴隷のようになっている連中に、WPCに訴えるだけの脈があるわけではない。完全に彼らは孤立していた。
 この問題に関しては、有名な政治学者も彼らが作った難民法に対しての正当性を訴えていた。元々はやむおえない法律だと思われたことが政治学者の正当論で完全に法律としての効力を約束されたも同然だった。
「奴隷制度の復活になるのでは?」
 というマスコミの心配があったが、
「いいえ、これはそうならないための法律です。実際に奴隷階級の連中が存在している以上、彼らを取り締まる法律があるのは当然のこと。実際に国民を取り締まる法律が存在するのだから、それも当たり前というものでしょう」
 と政府は答えた。
 記者会見では、かなりのマスコミからの攻撃があったが、それを正当論で跳ね返すだけの力が政府側にあった。奴隷制度への復活を心配するよりも、目先の奴隷民族による難民政策の方が大切であった。
 それは元々の法律を作った宗主国が歩んできたことであり、モデルコースを見ていると分かることだった。マスコミもそのことを分かっていての質問だったのだろう。質問の数もそれほどあるわけではなく、記者会見もそんなに時間が掛かることもなかった。
「大丈夫ですか?」
 マスコミからの攻撃を何とかかわした官房長官を見て、補佐官が心配で声を掛けた。
「ああ、大丈夫だ」
 と言いながらも汗をかなり掻いている官房長官は、ホッとしたのか、そのまま座り込んでしまっていた。
 この政策のおけがでこの国は難民を受け入れることなく無事に自分の国の権益を守ることができた。そのため、難民受け入れ拒否権は他国でも暗黙の了解となり、戦争が起こってから難民を受け入れない国が増えていった。
 そのせいもあるのか、行き場のなくなった難民は、受け入れてくれる国を探して彷徨う形になる。受け入れてくれない国がある一方で増え続ける難民の問題は深刻であった。負の連鎖が働くからだった。
 この世から伝送や紛争がなくならないのだとすると、どこかに受け入れてもらえる国を模索するしかない。その対象が発展途上国であったり、先進国に仲間入りを果たそうとする急進国であったりが候補に挙がってくる。
「WPCができるだけ援助しますので、受け入れてくださる国を急募いたします」
 というWPC緊急発議が発令され、実際に受け入れてくれた国に対しては、その国の国家予算の三分の一を一年で供出してくれることになった。
 もちろん、それも条件があって、その国の国民の十分の一を受け入れてくれるというのが条件だった。最初はその条件で公募したが、なかなか名乗りを挙げてくれる国はなかった。やはり国民人口の十分の一というのがネックだったのだろう。
 そのうちに条件を段階的に分けて公募することにした、