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ジャスティスへのレクイエム(第3部)

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 元々、彼らも占領された時は、領土を攻撃されて、廃墟となったところからの復興で、やっと街としての体裁を取り戻し、これから繁栄を望もうとしていたところであったので、その不満は間違いなくアレキサンダー国政府に向かう。
 彼らが占領の憂き目を追うまでは、チャーリア国とは良好な関係だったので、国境があっても、あまり意識するものではなかった。
 そのせいもあってか、チャーリア国との国境はほとんど素通りできるようになっていて、難民の流入は抑えることができなかった。
「我々も占領された立場なので、彼らに対して手を差し伸べるなどできるはずもない」
 と考えていた。
 アクアフリーズ国の攻撃は、難民が出てからも執拗に続いた。
「俺たちが何をしたんだ」
 と、アレキサンダー国内の占領地域の民衆は思っていることだろう。
 最初はアレキサンダー国としても、さほど彼らのことを気にしているわけではなかった。難民が雪崩れ込んできているという状況も、
「戦争なんだから、仕方のないことだ。それよりもあの地域で労働力が増えるのは却ってありがたいことではないか」
 とまで言われていた。
 しかし、それがただの
「お花畑的な発想」
 であることに気付くまで、さほど時間のかかるものではなかった。
「このままアクアフリーズ国の攻勢が続くと、我々に火の粉が飛び散ってこないとも限りません」
 と、政府の方から国家首脳へと具申されたのもそれからすぐのことだった。
 アレキサンダー国としても、このまま放っておくわけにはいかなくなったのだ。
 あれはいつのことだっただろうか? 先の大戦よりも前の戦争だったような気がする。
 隣国が他の国に攻められて、かなりの難民を出した国があったが、その国は難民の流入により滅んだということは有名であった。そのことがあってから、大戦前には難民を受け入れることを拒否できるという大戦中の特例とも言える国際法が制定されたことがあった。だが、その効力は大戦中だけであって、大戦が終了したことで特例の効力はなくなり、実際に隣国が攻め込まれて難民が発生した時、難民の受け入れを拒否しようとした国が国際法上罰せられたということがあった。もちろん、WPCや加盟国による金銭的援助や、加盟国によるできるだけの難民の受け入れが成立したことで難民拒否をした国は、即座に難民の受け入れに傾き、罰は執行されることはなかった。そのおかげで難民の問題は大きな問題にならずに済んだが、難民拒否ができないという体制が確立されてしまったことで、加盟国の間で戦争における難民の恐怖をいまさらながら思い知らされることになった。
 そんなことがあって、特にアレキサンダー国は難民に対してナーバスになっていた。
 彼らは元々クーデター政権。絶えずどこかの団体に政権をひっくり返されるのではないかと怯えが根底にあった。そんな不安から、政治に対して余計な心配をしないように心掛けていた。特に内政に関しては敏感で、そのため多少強引な外交であっても、国内世論に逆らうことができない体制でもあったのだ。
 実はアレキサンダー国が執拗にチャーリア国を意識していたのは、一時期自分たちの政権の支持率が落ちて、そのために軍事予算の供出が難しくなったことがあった。臨検君主の国であるため、政党が変わることは政府の転覆を意味していて、国民はそこまでは求めてはいなかったが、事あるごとに政府批判が目立つようになったのは事実だった。
 そんな時、アクアフリーズ国が神器を必要とし、チャーリア国に圧力を掛けようとしているという情報を嗅ぎ付け、アクアフリーズ国をたきつけることで、戦闘を起こし、国民の関心を外に向けるという政策上の作戦だった。
 その作戦は半分は成功した。国民の関心が外に向いたことで、支持率は少し上がってきたのだが、まだまだ安全圏とまではいかなかった。そのうちに神器の問題が解決し、両国の戦闘が終了すれば、アレキサンダー国の関与は大義名分を持たないものとなってしまった。
 国民には自国がアクアフリーズ国とチャーリア国の紛争に関わっているなど知りもしなかった。軍部や政府には箝口令が敷かれていて、報道管制も敷かれていた。
 アレキサンダー国の憲法では、確かに表現の自由は認めているが、国家元首がそれと認めた、
「臨戦態勢」
 が敷かれた場合には、国家元首の力で箝口令や報道管制を敷くことが可能だった。
 それに逆らった報道機関は、大統領令に逆らった機関として罰せられても仕方のない状態になるのだ。
 この国の司法は変わっていて、一般の刑事裁判、民事裁判とは別に、大統領令違反裁判所というのが別に存在していて、被告は一般の人ではなく、何かの機関だったり法人だったりする。国家反逆罪に匹敵する判決を受けてしまうと、代表者の処分はもちろんのこと、団体としての一切の活動の停止、あるいは団体の解散が義務づけられてしまう。
 ただ、この体制はアレキサンダー国だけではなく、アクアフリーズ国でも採用されていた。そもそもアクアフリーズ国もアレキサンダー国と同じように軍事クーデター政権による政府だからである。アクアフリーズ国はアレキサンダー国のクーデター成功をモデルとして、自国の変革を進めていったのだ。
 チャーリア国のシュルツはそのことに憂慮していた。最初こそアレキサンダー国への警戒を一番に考えていたが、途中からアクアフリーズ国の方に警戒を強めていくことになった。
 母国であるという特別の思いもあるのは事実だが、それ以上に軍事政権の今の元首は、元々自分の部下であり、強硬派で知られた人物だったことも、シュルツには心配だったのだ。
「アクアフリーズ国とアレキサンダー国とが緊密な関係に入ったようです」
 という情報は、アレキサンダー国に派遣している秘密諜報員からもたらされていた。
 この情報は結構早い段階でもたらさrていて、まだアクアフリーズ国の体制が確立する前のことだった。
「今はまだアクアフリーズ国の体制が流動的なので、どちらに転ぶか分からないけど、もしこの両国が手を結ぶことになると、アクアフリーズ国を侮ることはできなくなるな」
 とシュルツは言った。
 実際にアクアフリーズ国の体制が固まってくると、体制は明らかにアレキサンダー国を意識してのものに変わっていた。
「アクアフリーズ国は我が祖国ではありますが、我々は亡命政権、今は何もできません」
 と軍司令が言った。
「確かにその通りなんだが、私の心配しているのは、アクアフリーズ国に傀儡政権が出来上がりはしないかという危惧があるんだ」
 とシュルツは言った。
「傀儡政権というとアレキサンダー国のですか?」
「ああ、そうだ」
 傀儡政権というのは、表向きは独立した政権なのだが、実際には言葉のとおり、
「あやつり人形」
 という意味であり、他の国や勢力がその政権には介在していて、その勢力の影響の下に成立している政権である。
 かつての大戦中には、いくつかの傀儡政権が存在していた。
 大戦の原因となったものとして、まわりの国との同盟や協定があったのは前述のとおりだが、まわりの国を占領しても、占領下で今までの政権をそのまま生かすというのは、いつ手を咬まれるか分かったものではない。