小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ジャスティスへのレクイエム(第3部)

INDEX|19ページ/30ページ|

次のページ前のページ
 

 チャーリア国とジョイコット国、そしてアクアフリーズ国のトライアングルは、等間隔の距離を保つことが必須だった、そのことを一番に感じているのがジョイコット国で、彼らは安全保障の意味においてもチャーリア国を無視することはできず、アクアフリーズ国には、チャーリア国の目付としての役目を感じているのだった。
 だが、そのアクアフリーズ国が戦闘を引き起こそうとしているという嫌疑を抱いてしまったことで、いつの間にか国家全体が被害妄想に入り込んでしまっていることに気付かなかった。そのことに一番最初に気付いたのはシュルツだった。
 シュルツはさすがにまわりを絶えず観察しているので、気付くのも早かった。だが、最初は漠然とした感覚でしかなかった。ジョイコット国がチャーリア国とアクアフリーズ国との間で安全保障のトライアングルを感じていることは分かっていた。実際にシュルツもその関係を意識していた。そしてこの三国の間の安全保障こそが、まわりの国への安全保障にも繋がるものだと信じていたのだ。
 ジョイコット国は、どうしても貧困に喘ぐ国であり、国土や産業、資源にも乏しい国であった。それだけに安全保障を自国だけで打ち立てることができないことを誰よりも知っていた。いくらまわりを見て情勢を判断しても、彼らの目は自分たちのまわり以上の広い世界を見ることはできない。それが彼らの一番の弱みでもあった。
 そんなジョイコット国に近づいてきたのがアレキサンダー国だった。
 元々アレキサンダー国はアクアフリーズ国を我が手中に収めることで、この地域の覇権を握ろうと思っていた。
 しかし、アクアフリーズ国を刺激するということは、チャーリア国を刺激することになる。だからジョイコット国に目先を変えてきたのだが、
「ジョイコット国はチャーリア国の属国ではないですか、それこそチャーリア国を刺激することになりませんか?」
 という別の首脳の意見を聞いて、アレキサンダー国の元首は、
「そんなことはない。今は表に出ているわけではないが、ジョイコット国にとってチャーリア国は必ずしも必要な国ではないんだ。彼らにとって安全保障さえ守られれば、宗主国はチャーリア国である必要はない。我々でもいいと思っている」
「本当にそうでしょうか? 世界の情勢を見れば、我々とジョイコット国とでは政治体制も歴史も交わることのないものを感じるんじゃないですか?」
「普通ならそうかも知れない。でもジョイコット国の首脳はそこまで考えているわけではないんだ。そもそも彼らの視界はそんなに広いものではない。自国とそのまわりくらいにしか目は向いていない。つまりは自国とチャーリア国、そしてアクアフリーズ国の三国が平和であればいいと思っているのが必至なんじゃないかな?」
「そんなものですか?」
「何と言っても未開の国だったんだからね」
「よく分かりました」
「ところでアクアフリーズ国のことなんだけど」
 と、元首が話を変えた。
「アクアフリーズ国がどうかしましたか?」
「彼らは戦争をしたがっているんじゃないかって思うんだ。アクアフリーズ国は今内政は平和に見えるが、その平和のせいであの国の大統領はずっと不安な毎日を過ごしていると思うんだ。なぜなら彼らは元々軍事政権が起こしたクーデター政権なんだ。その国の国家元首は政治体制の維持に、平和な状況を決して喜ばないのではないかと思うんだ」
「それは我が国も同じことが言えるんじゃないですか?」
「確かにそうなんだが、我々は国民に恐怖政治を押し付ける形で、国家体制を築いてきた。今は落ち着いてきているので、少し緩和しているが、国民にとって絶対王政の君主であっても立憲君主によっての君主であっても、君主には変わりないという気持ちを抱かせることで、その権威を保ってきた。だが、アクアフリーズ国はクーデターに成功してから、国民の支持を得るために国民に寄り添う形を取ってきた。そのため、それまでにはなかった国民の自由民権の考えが芽生えることになった。これは国民に自由を与えてしまったことでの自分たちが感じる後悔なんだ。これは厄介なことで、自分たちが悪いという意識がある以上、国民に対して疑心暗鬼が深まるだけの状態を作ってしまった。それがどこまで自分たちを苦しめるかということに、最近やっと気付いたんじゃないか?」
「それで、戦争をすることで自分たちの権威を保全しようと考えているということですね?」
「そうだと思うんだ。だから、我々が神器を取り戻すという名目でチャーリア国に攻め込む作戦を立てた時、アクアフリーズ国を利用しようと考えたのさ。私は闇雲にアクアフリーズ国に目を付けたわけではないんだよ」
 と、元首は語った。
 アレキサンダー国というのは、世界的にもあまりいいイメージを持たれている国ではない。WPCからも危険国家として、レベルは一番低いのだが、警戒されているのも事実だし、WPCの監視役が危険国家に対して、派遣されているが、アレキサンダー国にももちろん派遣されている。彼らは絶えずWPCにアレキサンダー国の情報を送っているが、その動向に怪しい気配を感じることがないというものだった。
 チャーリア国への侵攻をアクアフリーズ国に打診していた時も、WPCに対しての報告は、
「異常なし」
 というものだった。
 神器を気にしているのはアクアフリーズ国なので、アレキサンダー国がチャーリア国を攻めるという発想が最初からなかったのだろう。
 ちょうどその頃、アクアフリーズ国でも閣議が行われていた。
 彼らの閣議の議題は、
「チャーリア国への侵攻案」
 であった。
 アクアフリーズ国にとっての悲願は、チャーリア国を再併合という形で、元々の国家の信用を回復しようというものだった。
 アクアフリーズ国というのは今まで自分たちが築き上げてきたものもあるはずなのに、国民の目は以前からのシュルツやチャールズによる国家が基本にあると思い込んでいる。どんなに自分たちが国家のためを考えても、結局はシュルツやチャールズが生存している以上、二人はアクアフリーズ国では伝説となっているのだ。
 中には、
「絶対王政の頃の方がよかった」
 と言っている人もいる。
 今では言論の自由もかなり制限をしているせいで、そんな言動はなくなってきたが、中途半端な言論の自由があった時代には、そこかしこで囁かれていることであった。
「もう、自由など国民に与えることはない」
 というのが政府の考えであった。
 しかし、軍部による独裁を貫くことは、新たなクーデターを生むことになる。かといって王国の復活も一度クーデターを引き起こしただけに容認できない。
 アクアフリーズ国がチャーリア国への侵攻の目的としては、
「併合は行うが、シュルツとチャールズは生かしておくわけにはいかない」
 というものだった。
 国民に対しての侵攻理由の表向きは、
「チャーリア国の再併合」
 だった。
 だが、そのために、
「前の絶対王制に戻ったりはしないだろうか?」
 という人の意見に対して、
「それは大丈夫です。あくまでも我々は立憲君主の国なんです。憲法に従うことが必要なんです」
 と説明した。
 だが、今の世界の国際法としてのWPC憲章には、