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ジャスティスへのレクイエム(第3部)

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「そうですね。今ジョイコット国で事が起こってしまうのは、我々にとっていいことではありませんからね」
 とシュルツがいう。
「ジョイコット国は属国としての利用価値は、植民地としての利用価値と違って、明るみに出てしまうわけにはいかないので、何かが起こっても、すぐに鎮圧しなければややこしいことになってしまうだろうね」
「まさしくその通りです」
「ところでジョイコット国とアレキサンダー国やアクアフリーズ国とは接触をしてはいないのかな?」
 とチャールズは気にしていた。
「それは大丈夫です。アクアフリーズ国とアレキサンダー国も、この間の第二次戦争後はおとなしくしているようで、それまでのような親密な関係というのも、今は見えてこないですね」
「じゃあ、今のところは平静を保っていると言っていいのかな?」
「ええ、心配には及びません」
「ちなみにジョイコット国なんだけど」
 とチャールズは少し不安な表情になった。
「はい」
「あの国は国家自体が大きな宗教団体のようなものなので、侵攻は難しかった。他の国があの国に介入することはあまりなく、かつての植民地時代にも、列強はジョイコット国を植民地にしようとはしなかった。だから時代に取り残されたような文明しかないんだろう?」
「ええ、そうです。でも、かつての植民地時代には侵略を受けることはなかったですが、侵攻されたことは結構あります。あの国は他国を攻める場合には通り道になるので、しh理的には気の毒な国と言ってもいいでしょう。それでもただ通り道になるだけで駐留されることはない。文明が遅れてしまったのも仕方のないことでしょうね」
「負の連鎖が働いたというべきかな?」
「その通りだと思います」
「しかし、彼らは戦争が起こると絶えず中立を宣言したんだろう? 中立国に対しては侵攻することも許されないんじゃないかい?」
「建前はそうです。でも、当時の国際法はそれほど確立されているわけではありませんでした。確かに中立国に侵攻することは不法侵入にはなるんですが、何もせずに通り過ぎるだけでは、罰することはできません。もっとも、他の国が世界大戦に参戦するための口実として利用したことはあるようです。侵攻するには国内の世論が大きな影響を示しますからね」
「それはそうだろう。私たちも戦争をするには大義名分の存在が不可欠で、宣戦布告というのは、それを明文化し、内外に宣伝することが目的ですからね」
「宣戦布告というと、国内向けが一般的だよな。大義名分の後に、国民の奮起を促すのが宣戦布告の詔書だからな」
 今までに何度か宣戦布告の詔書を書いたことのあるチャールズらしい意見であった。
「ところでジョイコット国は、我々の意思をそこまで分かっているんだ?」
 とチャールズは続けた。
「ハッキリとは分かりませんが、私の感覚では怪しいとも思っていないと感じます。そういう意味ではジョイコット国を利用しようとするのは正解ではないかと思っています」
「彼らは未開の国だという意識があり、他国には分からないようなコンプレックスを持っているのではないか? もしそうだとすると、我々とは感覚が違うわけだから甘く見るわけにはいかないだろう」
「その通りですね。でも、我々との間で武力兵力には明らかな優劣が存在しています。それを背景に考えれば、さほど気にする必要もありません」
「しかし、手荒なことをすれば、他の国からの批判が大きくなって、我が国の国家運営自体に翳りを残すのではないかな?」
「それはその通りです。だからそうならないように監視の目をしっかりと持って、彼らが疑いの目を持たないようにしようと思っています」
「それで大丈夫なのか?」
「ええ、あの国は以前から密輸で生計を立てている国であり、国民の間にも密輸が蔓延っています。そういう意味では国際社会としては容認できないことなのでしょうが、彼らが未開の国であるということから、大目に見ているところがあるんです。一触即発とまではいきませんが、彼らも相手が国際社会だとすれば、一気に殲滅されてしまうことくらいは想像できることでしょうね」
「彼らとしては、それが一番怖いことなのかな?」
「それは違うと思います。彼らの宗教は死を恐れることのない教えが根本にあるようで、志を捨てて命乞いをするよりも、志を持ったまま死を選ぶ民族のようです。ただ、他の国との交流がほとんどないですので、その文化を当たり前だと思っているんでしょう」
「なるほど、でも、それならどうして彼らにそのことを教えてあげようとはしないだい?」
「口で説明しても彼らは納得しませんよ。教えられて納得することは宗教関係のことだけです。もちろん、それはよそ者から言われてのことですけどね」
「じゃあ、国家間では誰かが説明すれば分かるのだろうか?」
「分かるかも知れません。でも、教える立場の連中が教えるとは思えないし、そうなると彼らが真実を知るということはないでしょう。彼らは植民地時代が世の中にやってくる以前は、完全な鎖国をしていましたからね」
「歴史上、鎖国と言っても、完全な鎖国というのは聞いたことがないぞ。鎖国を謳っていても、国の中で一つか二つの港は開いていて、一国か二国との間で、細々と貿易だけをしているくらいですよね」
「彼らもそうだったんだろうか?」
「最初に侵攻してきた国家が、彼らに宗教を教えたようです。あれよあれよという間に信者が増えて、国家では抑制することができなくなった。当時の植民地獲得の常とう手段として、外部から攻め込むというよりも、まずは宣教師などの布教を目的とした集団を送り込み、彼らが特殊工作を行う。内乱を起こさせて、その混乱に乗じる形で国家を掌握するというものですからね」
「彼らもそのようにして開国したのかな?」
「開国はしたようですよ。でも、植民地になることはなかった。どうやら送り込まれた宗教団体が母国の方に『ここは植民地支配には向かない国』として打診していたようです。私はその気持ちが分かる気がしますね」
「その頃からパルチザンというのはいたのだろうか?」
「パルチザンというのは、一つの勢力に抗う形で出てくるものです。そのため存在は知られたとしても、内情を知られてはいけません。そのためわざと存在を知らしめるような行動を取り、彼らが犯行声明を出すのも、その表れではないかと私は思っています」
「彼らも気の毒なところがあるということだろうか?」
「私はそうは思いません。国家としての体裁を整えることを拒否し、国際社会を受け入れることをしなかった彼らは、それだけで罪だと考えます。国際社会が罪だと思うと、何かあった時、どこも助けてはくれません。でも、それは彼らが招いたこと。そこにいちいち同情していては、国際社会の全体像を見ることはできません」
「なるほど、さすがにシュルツはいつも鋭いな。怖くなることもあるよ」
 と、チャールズは皮肉を言ったが、
「恐れ入ります」
 と、シュルツはスルーしたかのような言い方をした。