小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

短編集58(過去作品)

INDEX|16ページ/20ページ|

次のページ前のページ
 

 という態度が表に出ていたのも仕方がないことで、却って、自分にとって不利な状況を作っていたことへの自己嫌悪もあったのだ。
 男性が汚らしいものに見えたのも事実だ。
 鏡を見るのが嫌いだったのは、自分があどけない少女に見えたのも一つの理由だった。ひねくれた性格をしていると思っているのに、気持ちが表情に出てこない。何となく人を、そして自分をも欺いているように思えてならない。
 そんな美弥子を狙っている男がいるのではないかという妄想を抱く。狙っている男は、いかにもニキビ面の汚い顔の高校生で、美弥子の一番嫌いなタイプである。
「汚らわしい」
 そう言って、彼らを遠ざける妄想に駆られる。
 男たちが、美弥子の足元にひれ伏している姿を想像することもあったが、そんな時の都の顔は、やはりあどけなさが抜けていない。ただ、それだけに表情は、氷のように冷たい表情で、いつ何時表情が一変してしまうか分からない。一変した表情を思い浮かべるのだが、モザイクが掛かってどうしても想像できない。自分の中で想定外な表情になっているに違いない。
 夢から覚める時と似ている。
 想像できる範囲でなければ夢を見ることはできないだろう。
「潜在意識が見せるのが夢なのさ。だから夢には限界があるんだ」
 と父親から聞いていた。
 父親は、現実的なことよりも、夢などのような幻想的な話をするのが好きな人で、学生時代は、小説家になりたかったという話を聞いたこともあった。
――私が妄想するのも、そんな父親の血を引いているからなのかもね――
 と考えたくなるのも無理はない。だが、よう考えてみれば、妄想するのは何も美弥子だけではない。誰にだって妄想癖はあるのだ。それも、美弥子には分かっている。
――人と同じだと面白くない――
 と考えるようになったのも、妄想癖を感じるようになってからだった。
 妄想を正当化していいものかどうか分からないが、成長過程であればそれも致し方ないと思う。想像力はその人の個性だと信じて疑わなかったからだ。
 大学に入ってできた彼氏は、清純だった。青春を謳歌しているような健全な雰囲気があり、
――こんな人と知り合うことができるなんて――
 美弥子からすれば願ったり叶ったりであった。
「あの二人、お似合いのカップルね」
 という噂話を聞いたことがあるくらいに傍から見れば羨ましがられるカップルだったに違いない。
 出会いはどこにでも転がっているようで、それを成就させるには、タイミングも必要だった。
 いくら相性が合うはずの相手であっても、会話がなければ、ニアピンですれ違うだけに終わってしまう。
――そういえば、どちらから話しかけたのだろう――
 後から考えると、ハッキリとしない。それだけ自然な出会いだったということなのだろうが、男性との出会いをいろいろ思い浮かべていた時期が懐かしく、実際の出会いは実に単純なものだった。
 待っているとなかなか成立しないものでも、気を抜いた時にこそ、ふっと幸運は訪れるものなのかも知れない。
――世の中、何とも皮肉にできているものだ――
 と思えてならなかった。
――本当の幸運とは何なのだろう――
 それまで考えたこともなかった。
 ただ、「幸運」という言葉をひたすら追い求めていただけで、追い求めているのが、幸せのように感じていた時期すらあった。実際に「幸運」を掴んでしまうと、拍子抜けしてしまうのではないかという危惧があったのも事実だった。
――考えすぎなのかも知れないわ――
 好事魔多しという言葉を習った時、何とも言えない雰囲気があった。よいことを追い求めていても、そういう時にこそ「魔の時」が顔を出すなどということを考えたくはない。身もふたもないではないか。
――私って、本当に余計なことばかり考えているんだわ――
 と、我ながら苦笑してしまう。こんな性格が凶と出るか吉と出るか、それこそ、これからのことに違いなかった。
 だが、その不安はあながち間違いでもなかった。
 男運に関しては、美弥子は最悪だった。数人の男性と付き合うが、浮気性だったり、ちょっとした諍いが起こっては、最後美弥子を詰るようにして男は離れていく。
――どうしてそこまで言われなければならないの――
 と感じるが、男は逆切れしてしまい、美弥子を詰る。優しい言葉に敏感になってしまうのも仕方のないことかも知れない。
 詰る男性が一人だけではなかったということは、美弥子の側にも詰られる何かがあるのだが、そのことが一番分からないのも自分である。
「あの人、話していてじれったいのよ。そのくせ理屈っぽいから、ついつい怒鳴りたくなることもあるのよね」
 こんな会話がされていることを美弥子は知らない。何しろ、美弥子と別れた男は、彼女の友達と付き合うようになってから、ベッドの中での会話だからである。
 真っ暗で静かな部屋。男は紫煙を上げている。ボンヤリと天井を見つめている男の胸に恍惚の表情を残したまま、美弥子の友達がしがみ付いている。
「美弥子という女、不思議な女なんだよな。あれだけ別れてせいせいしたと思っていたのに、顔を見ると、後ろめたさを感じるんだ」
 相変わらず、天井を見つめている。
「あなた、因りを戻したいなんて考えているんじゃないでしょうね?」
 慌てて、女は男の顔を見ながら、男のわき腹を抓った。
「いたた、そんなことはないさ。ただ、不思議な女だと思っただけさ」
 友達は、彼のことが最初から好きだった。美弥子と付き合い始めた時に、美弥子への嫉妬もさることながら、彼への憎悪も少なからずあったのも事実である。
 もちろん、男はそんなことを知る由もない。ただ、自分に彼女が興味を持ってくれていたことだけは分かっていた。だから、美弥子と別れてから彼女がモーションを掛けてくることも分かっていたし、
――ひとまず乗ってやろう――
 と思ったものだ。
 美弥子は打算的な考えはなかった。感情で動くが、裏表はその分ない。
 しかし、美弥子の知らないところでは、ほとんどが駆け引きが展開されていて、裏表が存在する。
「男と女って本当に不思議よね」
「ああ」
 天井に届くか届かないかの煙を見ながら、男は静かに呟いた。
 美弥子とのベッドの中でのことを思い出していた。少なくとも、もう少し自分の中での感情の起伏があったはずである。
 美弥子の友達とは、情熱的であった。熱いくらいの感情をぶつけてくる。だが、それに答える術を男は知らない。
――美弥子に対してぶつけていたのは、俺だったからな――
 美弥子はそれほど熱く感じる方ではない。どちらかというと冷静だ。自分がいくら感情をあらわにしても、美弥子は綺麗に吸収してしまう。
 あまりにも綺麗すぎるのだ。
 まるで割り切っているかのように思えることで、男は不安を感じる。
――まるで男女関係が逆なんじゃないかな――
 と考える。
 ドラマなどを見ていてもそうだ。女が男に尽くすのがベッドシーンではないだろうか。男が女に尽くすシーンというのは、その中に打算的なものがない限りは信じられない。男が美弥子を見ていて不思議に思うのはそこだった。
作品名:短編集58(過去作品) 作家名:森本晃次