欠けた満月の日
擦り切れたジーンズに黒いジャケットを羽織った人物が近づいてくる。伸びた髪は首をおおい、あごにはまばらに髭が生えている。手の中で鍵を遊んでいる。
懐かしい、胸を締めつけるタバコの香り――
「……望?」
それは紛れもなく将斗だった。四年の月日を経て、肌の色はくすみ、瞳の輝きはなかった。けれどいつも将斗が吸っていたタバコの甘いかおりがたちこめて、望は立ち尽くしてしまう。
「……先生」
パーキングの看板が明滅する。目の前に将斗が立って自分を見ている――その現実から取り残されていく心地がした。