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ジャスティスへのレクイエム(第2部)

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 と、ニコライは分かりやすく三原則のことをシュルツに告げた。
 シュルツの頭の回転は全世界的に見ても群を抜いていると、彼に関わった人のほとんどが認めている、ニコライはこれだけ言うだけで、シュルツなら理解してくれると考えたのだろう。
「なるほどよく分かりました。三原則には優先順位が存在し、その順位を変えてはならない。そうすれば、人間が危機に陥ってしまうことになり、ロボット開発が世界滅亡まで考えなければいけない深刻な開発になるというわけですね」
「ええ、そうです。ただそれは兵器開発にも言えることなんですが、実は兵器開発の問題とロボット三原則とは切っても切り離せない関係にあると思うんです」
「どうしてですか?」
「兵器もロボットも、人類を滅亡させるアイテムであるということです。ロボットが三原則にしたがわなければ、その時点でロボットは一兵器として存在できるわけですからね」
 とシュルツは言ったが、その時、ニコライが寂しい顔になったのを思い出した。
 自分は他民族の子供として差別を受けて育ってきた。それはまるで人間の役に立つためだけに生まれてきたロボットと運命が似たりよったりなのではないかと思った。
――私がロボットの研究に躊躇っているのは、子供の頃に受けた差別や苛めの印象が、ロボットと人間という主従関係を否定的に考えているからなのかも知れない――
 と感じていた。
 シュルツはもちろん、ニコライのことは調べ上げたうえで話をしていた。したがって、子供の頃に受けた苛めや差別のことも知っている。他民族であるために致し方のないとも言えるが、どこまでニコライの心の中を感じることができたのかということまでは分かるはずもなかった。
 ニコライも、シュルツ長官が自分のことを調べ上げているということくらいは分かっていた。分かっているので、余計なことを言わないようにしないといけないと思ったが、ニコライを目の前にすると結構ズケズケと気持ちの中に入ってくるシュルツの前では、余計な気を遣うことこそ無用なことではないかと思うようになっていた。
 この二人クラスになると、気を遣うことは却って相手に失礼になる。それくらいのことは分かっているが、ニコライとしても相手が長官で国のナンバーツーであることを考えると、下手なことに書き込まれたくもないという思いが生まれてきたのを感じた。
「ロボット工学を研究していると、文明についても考えてしまいます。たとえば公害問題もそうですよね。開発が進めばどうしても産業廃棄物が生まれてしまう。政府は産業廃棄物の存在を考えていなかったわけでないが、その量は想定の限りではなかったんですよ。何といっても、その処分場所には苦慮するし、見つかっても賄えるだけの量をとっくに超えていますからね。研究とその研究で生まれる参拝物は、それぞれが打ち消すことのできるものではない。それぞれプラスとマイナスで広がっていくばかりなんです」
 ニコライが産業廃棄物まで考えているとは意外だった。
 だが、それも自分の研究を正当化させたいという思いから、似たような発想を転換させただけなのかも知れない。そう思うと、ニコライにとって国家をどのように考えているかがシュルツの頭の中に漠然としてではあるが、生まれてきた。
 それもニコライがシュルツが分かってくるだろうということを見越して考えていることだから、ニコライは実に先見の明のある人だと言えるだろう。しかし、それもシュルツと同じであって、二人が話している時は、自分のことよりも相手を見ている時が圧倒的に多いということだろう。
 最近のニコライが研究しているのは、核兵器だった。
 核兵器と言っても、一つの街や地域を破壊尽くすような巨大な爆弾ではない。
「核兵器は文明への挑戦だ」
 と思っているニコライに、地域全体を破壊尽くすような兵器を開発するだけの気持ちはない。あるのは、
「専守防衛をいかに達成できるか?」
 という考えであり、その考えから、核兵器の開発へと行き着いたのだ。
 この考えが皮肉ではないことをニコライは分かっている。分かっているが彼の中にあるネガティブ志向な発想が、彼をジレンマに陥れ、鬱状態へと変革させている。
「ただ今ある兵器だけでは専守防衛を行ったとしても、戦争を終わらせることはできない。防衛に徹しているだけでは戦争を終わらせることができないことを、もっと君には知っておいてもらいたい」
 というのがシュルツ長官の意見だった。
 そんなことはニコライにも分かっている。しかも、ニコライがそれを分かっているということをシュルツにも分かっている。分かっていて敢えて指摘したのだ。
 ニコライのようなネガティブ志向な男は、触れてはいけないことを避けるのではなく、敢えて触れてみることも重要だ。言い方にもよるし、言う人にもよるのだろうが、その適任者がシュルツだったのだ。
 シュルツの言うことはニコライはほとんど理解できているし、意見も同意見がほとんどだ。
――腹を割って心から話ができる相手――
 それがシュルツだったのだ。
 もし他の人の指摘なら、
――分かりきっていることを言うんじゃない――
 と心の中で叫んで、自分の殻に閉じこもってしまいがちなところがあるのがニコライだった。子供の頃の記憶がそうさせるのだが、どうしても差別的な境遇は、彼を狭い殻に閉じ込めておく性質があるようだ。
 そんな時、ニコライの尊敬している教授が、ニコライとの話の中で、核兵器の話をしてくれた。それまで核兵器というと、
「世界を滅ぼしかねない悪魔の兵器」
 としてしか見ていなかった。
 確かにその通りなのだが、
「世間では、核兵器を持っているだけで平和が保たれると思っているようだけど、それはあくまでも一触即発の裏返しでしかない薄っぺらい平和なんだよ。だから、核兵器を持つことが平和だと思うのではなく、核をどのように利用するかということが大切なんじゃないだろうか?」
 という教授に、
「そんなことができるんですか?」
「理論上は可能だと私は思っている。君は確か専守防衛だけがこの平和への近道だと思っているようだけど、それは違う。専守防衛だけでは戦争を終わらせることはできない。戦争を終わらせるためにはどうすればいいか、考えてみてごらん」
 と教授から言われて、少し考えていたが、
「戦争を終わらせるためには、相手の戦意を喪失させるのが一番ではないでしょうか?」
 と答えると、