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ジャスティスへのレクイエム(第2部)

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 その頃のアルガン国は、まだまだ発展途上国というイメージが国際社会の中には息づいていて、植民地として奴隷のような状態になることはなかったが、地理的な問題で、絶えずどこかの国から侵略を受けていた。
 かつての世界大戦が終わって、アルガン国は晴れて侵略から逃れることができたが、国土は他の国同様に荒れ果てていて、復興にはかなりの時間が掛かった。それでも列強ほどひどくはなかったことで、二十年も経たないうちに国としての体制が整い、国際社会からも認められるようになった。
 元々侵略を受けていたのは、地理的な問題だけではなく、この国には地下資源が豊富にあったからだ。平和になった世の中では、彼らの地下資源は彼ら自身が使えるようになり、そのおかげで重工業が飛躍的に発展した。社会的にも地位を確立した上に、地下資源によって経済も潤ってきたことで、一躍アルガン国は世界でも有数の、
「富める国」
 となったのだ。
 平和な世界で輸出品が増えたこと、工業力がアップしたことで、一時期は軍事予算もかなり取れるようになった。兵器開発も自国で行えるようになり、世界大戦によって各国が保有していた科学者も、大戦終了で解放され、世界各国に散っていたが、アルガン国は彼らの行方を確認し、自国への協力を頼んだ。
 中には、
「私はもう科学に関わる開発をしたくない」
 と言って断る人もいたが、ほとんどの科学者はアルガン国の誘いに乗った。
 途中から他の国からも引き抜きがあったので人数的には少し減ったが、世界的に見てもアルガン国細科学者を抱えている国はなかったのだ。
 彼らには科学者なりの考えがあった。中には偏屈な人もいて、政府を悩ませるような人もいたが、政府の考えていたよりもはるかに大きな影響をこの国に与えてくれたのは、アルガン国にとって、嬉しい誤算だった。
 復興も奇跡なら、発展も奇跡だった。世界的にもモデルになりうる国家とし優良国のレッテルが貼られ、世界はアルガン国のさらなる発展に注目していた。
 だが、アルガン国の頂点は意外と早くやってきた。
 頂点を迎えてしまうと、あとは横ばい状態が続くだけ、いつ下降線を描くかということになるのだろうが、さすが土台がしっかりしているからなのか、アルガン国が下降線を描くことはなかった。
「横ばいになり始めて十年が経ってもまだ横ばい状態なら、下降線を描くことはないだろう」
 という経済の専門家の意見もあったが、アルガン国はまさにそんな国だった。
 発展を見守っている間、いろいろな国と国交を結び、アルガン国の成功にあやかろうという国もあった。
 実際に、アルガン国と国交を結んだおかげで復興が五年早まったといわれる国もある。「アルガン国とは仲良くさえしていれば、得をすることはあっても、損をすることはない」
 とまで言われるようになっていた。
 アクラフリーズ王国もアルガン国とはかなり早い段階から国交を結んでいた。チャールズの父親の時代からというから、かなりの古さである。
 アルガン国としても、先代の国王やシュルツを人間として尊敬していて、彼らがいるからこその同盟だったのだ。
 アルガン国が他国と同盟を結んだ最初は、アクアフリーズ国だった。実はその次に同盟を結んだのはグレートバリア国で、アレキサンダー国の前身だった。
 革命が起こらなければそのまま同盟を結んでいただろうが、
「クーデター政権とは同盟を続けていくわけにはいかない」
 と、同盟の継続を望んでいたグレートバリア国を一蹴した。
 これにはさすがにグレートバリア国もショックだったようで、しかも、彼らが現状の敵であるアクアフリーズ国との同盟は継続していることからアルガン国も敵として見るしかないと思うようになったようだ。
 グレートバリア国のクーデター政権であるアレキサンダー国は本当のアルガン国の力を知らなかった。過小評価をしていたと言ってもいい。そのため安易にチャーリア国に攻め込んだが、次第に後悔するようになってきたのも事実だった。
 さて、アルガン国が次第に差別がなくなっていき、民族間の紛争も極端に減少していった頃、ニコライは就職時期を迎えた。
 ニコライは少年時代から差別を受け続けていたが、ひねくれることはなかった。
「なにくそ」
 という気持ちが強く、人の何倍も勉強に勤しんだ。
 そんなニコライのことを大学時代の恩師でもある教授が一目ぼれした。
「どうだい? 私の研究室で助手をやってくれないか?」
 と言われた。
 それは思ってもいなかったことで、青天の霹靂だった。
「えっ? 私が教授のお手伝いを?」
 というと、
「嫌かい?」
 と教授はニッコリと笑って答えた。
「嫌だなんて。あまりにも光栄なことなので、ビックリしてしまいました」
 と、本当に驚きを隠すことなく表に出していた。
「私は君の才能を手放したくないんだ。私のこれからに協力してくれ」
「はい、喜んで」
 二人は、その時から最強のタッグを組むことになる。
 教授は兵器開発では、アルガン国でも屈指の人材で、博士号もいくつか持っていた。物理学、化学、生理学に特に強く、兵器開発はその延長線上にあった。
「私が兵器を開発するのは、専守防衛を基本に考えているからなんだ」
「専守防衛ですか?」
「ああ、自分たちが侵略者になるのではなく、侵略してくる連中を迎え撃って殲滅するための兵器。私はこれを平和のために使ってほしいと思っているんだ」
「なるほど」
「そのためには、コストはなるべく抑えて、安価で取り扱いの難しくない兵器。それが目標だね」
「分かります」
 ニコライは、教授と話をするのが好きだった。
 教授の意見は自分の意見とも一致していた。特に幼少の頃より差別で一方的に苛められていたのだから、専守防衛という言葉には敏感だった。相手に攻めかかるなどという発想はニコライの頭の中にはない。あくまでも攻めてきた人をいかに殲滅するかが課題だったからだ。
 だが、差別を受けている間にはその答えは出なかった。いつの間にか差別はなくなっていて、解放されたのはいいが、目標がなくなってしまったようで、気持ちとしては中途半端だった。そんな時教授に声を掛けてもらえたことは、ニコライにとっての人生の岐路だったに違いない。
 ニコライは最初から教授が専守防衛を目指している人だということを知らなかった。
「自分とは縁のない兵器を開発している人」
 というイメージが植え付けられているだけで、それ以上興味を沸かせることはなかったのだ。
 そんな教授が自分のことを気にしてくれていたということが嬉しくて、しかも研究が自分の今までの生き方にマッチしていて、さらに中途半端に終わった自分を攻めてきた連中を殲滅するというイメージを再燃させることができると分かったことで、有頂天になっていた。
 ニコライは教授にとって、実に忠実な部下だった。だが、教授はニコライのことを部下だとは思っていない。
「自分の目標を一緒に達成してくれる同志だ」
 と思っていたのだ。